速度の自乗に比例するもの


2001/08/11

帰省するための列車の切符を買いに, 五反田駅に行った帰り, 中原街道を走っていた.

にわか雨が降った後らしく路面は濡れていたが, 走っていたときには降っていなかった. 交差点手前の路上駐車の原チャリを避けるために なんとなくブレーキかけたら, そのままビシューっと制御不能なスリップに陥り, 左側面から道路脇の壁に激突した. 時速は約 30km だったとおもう.

直前まで立て直すことを考えていたのがまずかったのか 良かったのか今となっては判らないが, ハンドルを放さなかったので胴体左側面から壁に激突し, その勢いで首がぐるっと回って顔面の右も激突した.

壁にぶつかって右に跳ね返り, そのままぶったおれた. いつまでもぶっ倒れているわけにもいかないので, また倒れない程度に気合いをふりしぼって立上ったが, 脳シントウがひどい. 飛び散ったサングラスなんかをかきあつめた. 飛び散ったといっても, 右のツルがとれただけで, これはポチンとはめ込めば元に戻るのであるが.

顔面を強くぶつけたので, 凄まじい鼻血が出ている. 脳シントウもけっこう出たので, なんかアレなことになってるかも しれないが, いきなり死ぬようなことは無さそうだ. 救急の原則は, 重要な順に呼吸 > 出血 > ショック である. とりあえず, 5分ほどして鼻血が止まらなかったら, 直ちに病院へ行こうと思った. そこで時刻を確認した. 17h55m であった.

鼻血以外にも, 顔面をあちこち切っててそこからも 激しく出血しており, 道路は血まみれである. これじゃあどこから 出血してるのか判らないので, とりあえず鼻血に絞って止血することに しよう. そばを通りかかったおばあさんが親切にハンカチをくれたので, それで鼻を押えていると, 鼻血は間もなく止まった.

何を考えたのかイマイチ不明だが, 帰省先で妻と行くツーリングの事が 最初に頭に浮かび, 自転車をチェックする. 前輪は曲がっており, ブレーキに当たってしまって全く回転しない. つまり, 走れなくなっている. これはマズイ. ユキリンに行って直さねば!

車輪をフォークにずらして固定し, ブレーキのクイックレリースを 全開にすると, なんとか回転することを発見. 後輪は全く問題ないので, これで走行可能じゃ! と乗ってみてビックリ. フォークがびよーんと強烈に右に曲がってます.

おかげで前ブレーキがおっかなくてかけられません. それから, 右の肩と首が猛烈に痛い. 首が左にグルリと回って顔面を壁にぶつけたので, 右の筋を伸ばしたらしい. いわゆるムチウチだ.

気合いと根性で安全運転でなんとか坂を 3つ乗り越えてユキリンにたどり着いたが, 顔面血だらけで客が来たので 社長がびっくり仰天. あたりまえである. 今にして思えば申し訳ないことをした.

「すげえ顔切ってるぞ」と言われて, バンソウコウを貼ってもらい, 血まみれの T シャツの着替えを借りる. すぐにタクシーで旗ノ台の 昭和大学病院の救急に. 自転車はそのままユキリンに入院. 徐々に, 「今週のツーリング」なんか考えてる場合じゃないって事が明らかに.

たまたま昭和大学病院の診察券を持っていたので, 受け付けはスムーズに終わり, 自宅に電話. 妻に来てもらう.

レントゲン撮影のまえに, 当番医による知覚と神経の異常のチェックが, 形成と成形の二人の医師によって行なわれた. すぐにレントゲン撮影に.

肩と首の写真を撮り忘れたので, もう一度 レントゲンのフロアに行かされた. このとき, 肩と首は最悪の状態で, 座ってるのを起き上がるのも辛い. 一度歩き出すと普通に歩けるんだが, 加速度がつくとダメである.

レントゲンと触診の結果は鼻骨骨折, 鼻と上唇の切傷. 肩と首の痛み.

鼻骨骨折は整復するわけだが, これが, 局所麻酔しても相当痛いらしい. 「やっぱり顔ってことで, 皆さん, 相当痛がるんですよ. 全身麻酔でやることもあります」 との説明. わしは大抵痛いのは平気なので, 局所麻酔でやることにする. 全身麻酔と局所麻酔には, unix で言えば, shutdown -r と 個別のプロセスに各種シグナルを送信するくらいの違いがある. つまり, shutdown -r の場合は, 最悪, 起動しない ということもあったりするし, そもそも体にかかる負荷が全然違う.

いずれにせよ, 月曜 (2001/08/13) に再診で, 俺としてはその際に局所麻酔で整復する方針.

とはいえ,「鼻に金属の棒を突っ込んで処置する」 とかそういう話を聞くと, 若干ビビるのはやむを得まい.

切傷はその場で縫合することになった. 手術は当番の新米の医師. 局所麻酔のあと, 釣針みたいな例のやつで縫うわけだが, これが技術が未熟でいつまでたっても終わらない. 疲れてたこともあり, 「まあ, じっくりやってや」 と言って寝てしまった.

縫合には 90分くらいかかった. 抗生物質が処方されたので, 薬局へ行って購入し, そのときユキリンにも電話して無事を伝える. 歩いて帰るとしんどいので, 妻が乗って来た買物チャリで帰宅. 首と肩の激痛を我慢しつつ, 寝る.

2001/08/12

昼頃起床. ごろごろ.

妹が上京してたので, 見舞にくる. 西麻布のナントカいうケーキ屋のムースを買って来てくれた. ごちそうさま. すげえ雨で, 大変だったろうに.

昼食は, 妻が作った. ピーマンの肉詰めトマト味.

妹が帰ってから, 午後は「逃げちゃダメだ」を 7話くらいまで観て, ダルくなって寝る. ダメな交通事故患者の理想的な一日.

それから, ムチウチ状態で寝起き及び寝がえりするのに良い方法を 発明する. タオルを頭の後ろにかけ, 首に重力がかからないように 手でぶら下げながら行動するのだ.

ふと思い付いて, 妻に筋肉痛などのシップを買って来てもらう. 貼る. おお. かなり具合良い感じですよ! さっさと貼ればよかったよ.

夜, 鼻骨の整復に関して様々に嫌なイメージが暴走的に 涌いて来て, 最悪の気分で全然寝られん. 鼻の穴の一番奥まで金属のヘラを突っ込んで, ぐいっと力を入れると, 顔の奥の方がプールで水が入った時の 1024倍くらいのじーんと来る痛みに 襲われるとか, そういうあらゆるヤなイメージ.

そういえば, 随分視界が広いと思ったら, 鼻が低くなっているのであった. 鏡で観てビックリ. 多分, 2mm くらいヘコんでます. そして, 2mm くらい左にズレてます. 2日に一度, 髭をそるときにしか鏡なんか見ないので, 自分がどういう顔だったか正確に憶えているわけではないが, 妻が「鼻が曲がってへこんでるよー. カッコよかったのにー.」 としきりに言うのがなんとなく納得できた感じ. これ, このまま治んなかったらかなりヤだなー, と思うと, それに関連してまたしてもヤな妄想が爆発.

フォークは全損であることがユキリンに 今日電話して判ったが, フレームはクランク軸を抜いて, 定盤にのせてみないと判らない. というわけで, さらに, フレームが狂ってて, 狂いも取れずに全損だったら, とか考えると, もう最悪の気分であり, 朝 8時半に病院行くのに, 3時すぎまで起きてたわけで, 首も痛くてうまく寝られず.

あーあ. フォークはもう使えないのか. あのフォーク, 剛性感が高くて, クロームメッキでかっこよかったんだが, とても残念だ.

2001/08/13

07h35m 起床. トースト 2枚で朝食. 睡眠不足で 眼は痛いし全身だるくて動きは緩慢, ちょっとしたことが 異常に気に障ってどうしょうもない朝.

完全に睡眠不足で最悪の気分のまま病院へ. しかし, 昨夜悪夢にうなされたおかげかかなりハラが座って 「オラオラ. なんでも来んかい」という気分.

診察室に入ると, 救急でみてもらったときに新米に教えてた ベテランの方の医師が居る. 「どうします?鼻は直しますか?」 「ええ. そのつもりです」

整復手術について説明を受ける. とにかく, その痛みは半端なものではないらしい. 全身麻酔だと準備や回復のために入院が必要で, ずっと時間も費用もかかるわけだが, 医師によると, 時間がある場合は大抵, 全身麻酔を選択し, 仕事などでどうしても都合が付かない場合に局所麻酔でやるという. しかも, 「皆さん, 相当痛がりますね」 と繰り返すじゃないですかー.

そう言われると昨夜の悪夢が甦り, ドタンバになってビビリが入って来るのが 人ってもんである. そこで, 全身麻酔でやるとすると, スケジュール的にはどうなるのか尋ねてみた. なーんと, 23日以降, すなわち 来週も末にならないとできないってことじゃ ありませんか. それを聞いて, 今日やろうと, 直ちに決断しました. 痛みを避けて時間を浪費するなど, 漢のすることぢゃないよね. てゆうか, 2 週間もほっといたら, 鼻が曲がったままくっついちまうよ.

失礼とは思ったが, 「元通りに直るもんなんすかね」と聞いてみた. 「直します!」とのお答え. もう, こうなったらやるしかないでしょう.

手術場所を確保してから, 直ちに局所麻酔のプロセスに入った. わしがベッドに寝転ぶと, 「痛いからねー. あのアンディ フグも涙を流したって言うからね」 と最後通告. そりゃどう考えても俺よりアンディの方がタフですからね, このおっさん, これから始めようっちゅうときに, なんちゅうことを言うてくれるんや.

まず, スプレーで簡単に鼻の内部に麻酔する. それから, 皮膚や粘膜から吸収されて効くタイプの麻酔薬をたっぷり染み込ませた ガーゼを鼻を左右の鼻の穴の一番奥まで突っ込む. これがなかなか辛い. さっきのスプレーは, この辛さを軽減するための処置だ. ちょうど, プールで飛び込みに失敗したりして鼻に水が入って ツーンと来た感じが固体によって引き起こされ, それがずーっと持続する感じ. これが, 突っ込まれるにしたがってどんどん強くなって行くのである. うひー.

麻酔薬が 十分に浸透するまでしばらくお休み. 医師は他の患者を治療していた. わしは, できるだけ孔の奥の方に麻酔が浸透するようにちょっと仰向けに なったりしてみたり. 麻酔薬が鼻から喉に降りて来て, 口の中が痺れる. 喉の奥も痺れて遺物感があり, はきけも発生する. はきけはウガイすると直ることを発見.

40分後, 再び手術台に乗り, 局所麻酔の最後の段階. 注射で鼻筋に 3発, 目玉の穴の下を通ってる 太めの神経にブロック麻酔を注射で左右に一発ずつ. そして, 最後. これがエグいです. エグい話を聞きたくない人は, 以下をとばして 次のパラグラフから読むとよろしい. 鼻の内部に局所麻酔して仕上げ. これは, 鼻骨が動いて刺激されるはずの, 顔の奥の方に麻酔するためである. つまり, 鼻の穴の最奥部に針をぶっ刺すわけですな. うー. 書いてて気分悪くなって来た(笑). 医師が「こいつは痛いですよ!」と断ってから注射器を俺の鼻の穴へ. ずんずんずんずん. 「おいおいおいおい. そこまで突っ込むかね」 ずんずんずんずんずん. 「まじかよ. そんなとこに刺すのかよ」 最後の瞬間を耐えて待ってたが, なんか知らんが注射器は鼻から出て行った. つまり, 麻酔が十分浸透していて, 全然痛くなかったのであった. なーんだ.

直ちに整復作業にかかる. まず, 小指を突っ込んで折れた鼻骨の 位置を探り, 手で直るところは直す. 「ビシ」とかいって, 鼻の右側面で 音がした. 「お. 動いた? 音がした?」 などと言いつつ, 幅 8mm くらいのヘラみたいな金属を右の鼻孔のぐぐーっと奥まで突っ込んで, ぐいーっとひっぱりあげる. 同様に, 左の穴にも奥までぐいーっと突っ込んでぐぐーっと引っ張り上げます. この, いちいちすげぇ奥まで突っ込まれるのがすげぇヤな感じですな.

なんかそういう作業を 3回ほどやって, 先曲がりペンチみたいなもので 鼻の真中の骨を掴んで, ふんがーっと引っ張ったりする. で, 作品のデッサンをオデコ方面から正中線にそって チェック. どうもオッケーらしい.

最後に, せっかく持ち上げた骨がまたヘコんじゃわないように, 鼻孔の一番奥(例によって, 水が入ってつーんと来るスペース) にガーゼを思いきり突っ込む. これがまた厳しい. 特に, 折れてヘコんでた左が辛い. そして, 整復手術中は当然ながら, 折れた時に匹敵する鼻血.

さあできあがりだ. レントゲンでチェック. あの手並. すげーっす. 達人である. レントゲンの撮影に行く道すがら, 視界がミョーに狭くなってるのに気づく. 鼻が元の寸法に出っぱったということなのだ. さて, X線写真で折れてた時と比較します. 直ってます. 完璧です. スゲーぜ. 医学の勝利だね!

鼻の上から屋根状の金属板で固定を行ない, 中にはガーゼの固定. このガーゼの固定がかなり辛い. またしても鼻に水が入った状態が半永久的に続くのである. これはたまらんので, 鼻炎カプセルを妻に買って来てもらい, 飲んでみる. 多少マシな感じはする.

夕方, ユキリンに行き, フォークを物色したりチャリの修理について 今後の予定を打合せ. ついでにヘルメットを買って帰宅.

2001/08/14

つうわけで, 教訓. 運動エネルギーは速度の自乗に比例する.

わしの運動神経と技術をもってしても, このような事故を防ぐことはできない. 無論, このテの事柄において当然の原則として, まず, コケないようにする ということがあるわけだが, そこから先のリスクが十分に大きい場合, 利用可能な手段が現にあるだけに, コケた時の対応が無いってのは, 愚かな事なのである.

リスクは少なく見積もっても速度の自乗に比例するわけだ. 実際には, 危険に対応するのに使える時間も減るわけだから, もっと増大するわけだけどね. したがって, 今後, ロードレーサーに乗るときは ヘルメットをかぶることにする.

2001/08/15

試作品で一般売りはまだ無いらしいが, TIME のカーボンフレームが すげえカッコイイのでちょっと欲しい感じ.

Le Tour de France で, フランスのチームが使っていたが, 直観的になかなか良さげ. 色もいい. というより, 色がいい.


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