バベルの図書館


推論や論理と, 詩的直観は相容れないものでもないという例が, Jorge Luis Borges の形而上学的で詩的な小説だ.

バベルの図書館という話は有名だ. ある, 宇宙的な図書館に勤める人物の独白という体裁の話だ. その図書館には, 一行に約 80文字, 40段組で 410ページの本がたくさんある. 一冊の本には, 約 131200 文字が書かれている. あるとき, 一人の天才が, 図書館には 131200文字の文字列全てが図書館に収め られている事に気づく. すなわち, 本の数は 10e1834079.3 冊であり, 図書館はアルファベットで表記可能な言語で表現可能な全ての記述を保持してい る.

全てとは, 未来の詳細な歴史, 熾天使らの自伝, 図書館の信頼すべきカタログ, 何千, 何万もの虚偽のカタログ, これらカタログの虚偽性の証明, 真実のカタロ グの虚偽性の証明, バシリデスのグノーシス派の福音書, バシリデスのグノーシ ス派の福音書の注解, バシリデスのグノーシス派の福音書の注解の注解, 以下略.

その中にはゲーデルの定理の証明もあるし, Linux カーネルのソースコー ドもある. バグのリストもあり, そのパッチもある. あなたの日記のラテン語訳もあるし, 書こうと思って書かなかった手紙のイディッ シュ語訳もある.

図書館の情報量は, 131200*10e1834079.3 オクテットだ. つまり, 約 10e1834085 オクテット(バイト)であり, 10e1834073 テラバイト. テラという単 位が, 指数関数を前にしては如何に無力であるかを悟る瞬間.

欠ける事無く全ての文字列を収録しているが, この図書館には, 検索というものが, 全く欠けている. 明示的に存在している規則が意味論を完全に欠いている. どの本も唯一のものであるが, それは文字の並びに関してであり, 意味論的には膨大な冗長性を持っている. どこかに, その本のやや不完全な複写が存在する. 例えば, コンマあるいはピリオドが一つ異なっている本が.

多少残念に思われるのは, この図書館に成立する syntactic な法則が, 単純過ぎる点である. 任意の文字列を全て保持している. しかしそれ以上の文法が 無い. だから, 想像はいつも, 「あんな本もある, こんな本もある」 で停止せざるをえない. ある本を探す事が出来ない理由は, そのための手続きがあまりに煩雑である, と いう事しか無く, 理論的にはたかだか有限時間内に捜索は完了する.

だから, こんど, 俺が「ゲーデルの図書館」みたいなパズルを考えてみよう. 俺にはボルヘスみたいな bookish な教養が無いから, あのような格調高いもの は書けないが.