ひとは見かけによらぬ


俺は電車が嫌いだが, むかつくことばかりではない. 電車にはいろんな奴が乗っており, じろじろ観察して, どういう人物であるか想像するのは, けっこう面白い.

人は, 「俺ってこういう奴なんだぜ」みたいな信号を発信しているもので, この信号自体はあてにならないが, 要するに, そういう情報の裏を読んだりして, 詳細に分析するのだ. 視線, しぐさ, 姿勢, 靴やズボンの裾の汚れ, 持ちもの等, 考慮すべき要素は多い. 分析が当たっているかどうかは, 別にどうでもいい. 電車が着くまでの気晴 らしだからな.

これをやって面白いのは, なんといっても予想を裏切る性格が判明した時だ. そして, 俺が読み外してぶったまげる事が多いのは, なんといっても, 水商売(風)のオバサンである. 水商売(風)のオバサンの本性を見抜く事は, 極めて困難な場合がある.

以前, 大井町に向かう電車に乗っていて, 俺は隣のケバいオバサンを観察していた. 化粧品が臭い. やがて隣のオバサンは, 本を読み始めた. 基礎となる教養にもよるが, 読んでいる本によって, 読者の人格はおおむね把握 可能である. 俺の本だななど, 全く俺そのままである.

「チョバム・アーマは, 1970年代にイギリスで開発された, 戦車 装甲である. その構造の詳細は不明であるが, チタニウム, セラミクス, ケブラー などの特殊繊維を組み合わせたものであると言われている. この装甲の目的とす るところは, 当時普及しつつあった, HEAT 弾に対する防御力を獲得するという ものであった. HEAT弾は, 成形炸薬による高温, 高速のジェット噴流によって装甲を焼き切るこ とにより, 貫徹, 内部の人員と装備を破壊するものである. このジェット噴流を拡散, 消尽させる事で...」

俺の蔵書からの引用ではない. そのオバサンが読んでいた本である. おばはん, 一体あんた, 何者?

今日も, おそるべきおばはんを見かけた. 業界雑誌とおぼしきものを読み耽っている, ハデなサングラスをかけたおばはん の, 読んでいる文書のタイトルは. 「セキュリティシステムと西暦 2000年問題」であった.

おっさんで, この手の人物には, 残念ながら会った事が無い. 男のマニアはすぐ判る.