コンピュータと気合い


世界には気合いのエネルギーというものが存在する. 気合いエネルギーは, それ自体として何かの作用を引き起こす事はないのだが, 既に存在するエネルギーを強める作用がある. 単に蹴りをくれるのと, 「アチョー!」という気合いをいれるのでは, 最大 256パワーの威力の差があることが知られている.

気合いには幾つかの種類があり, その種類は効果音によって分類される. 格闘技に於ける気合いは, 「ふん」もしくは「アチョー」が最強のものである事 が知られている. 前者は北拳であり, 後者は南拳である. 気合いは昔から存在しているが, 常に進歩している. 昔の格闘技に於ける気合いは, 「とお」とか「ちぇすとー」であったが, それらの気合いは「ふん」と「あちょー」によって駆逐されようとしている. しかし, たまには古き良き気合いを使うとよい. なかなか新鮮であり, 力がみなぎってくるのである.

格闘技界では, 気合いの存在は常識であり, 研究の方向は「いかにして強力な気 合いを実現するか」というものだった. しかし, それ以外の分野, たとえば コンピュータサイエンスでは, 気合いは全くないがしろにされていた. コンピュータの世界で気合いが知られるようになったのは, ここ数年のことであ る.

コンピュータの世界で気合いが知られるようになったきっかけは, ゲームであった. ゲームをする者たちは, 気合いを入れたのとそうでないのでは, ハイスコアが違 う事に気づいたのである. これがコンピュータに於ける気合いの発見であった.

コンピュータに於ける気合いがもっとも発揮されるのは, 対戦格闘ゲームにおい てである. 対戦格闘ゲームの発展に伴い, 気合い量子力学が発見され, 気合いゲージ理論が SNKによって発表された. 気合いゲージ理論にもとづき, 「気合いゲージ」をそ なえたゲームが発売され, ゲームの世界では, 気合いとプログラムの関連は, も はや自明であった.

しかし, コンピュータの世界のうち, ゲームでは気合いの存在は広く知られていたものの, その他の領域, たとえばネットワークやプログラミング理論といった分野では, 気合いが話題になる事は無かった.

1980年代に開発された TCP/IP は, データを有限の長さのストリームとし, 先 頭に通信に必要な情報を書き込む部分を, ヘッダとしてくっつけてやりとりする, パケット通信のやり方のひとつである. 気合いの存在を認めようとしないコンピュータサイエンスの領域ではあったが, ハッカーの世界では, やはり気合いとコンピュータの関連は, 暗黙の了解があっ た. そして, 現行の IPv4 のヘッダには, オプションで「気合いフラグ」が存在する.

気合いフラグの使い方は, 意外と簡単だ. ping というプログラムはおなじみだが, ICMP echo request パケットに気合いをいれるオプションは, "-f" である. ping -f hoge.org と入力し, ENTERキーに気合いをこめてタイ プすれば, 気合いフラグがセットされたパケットが送信される. しかし, ICMP は気合いを実装してないので, -fオプションを付けても相手の ホストの CPU時間がネットワークに食われてウザく, ネットワークも混雑して ウザイので, ping で気合いを使うのは良くないことである.

XFree86 の 3.3 からは, 「気合いクリック」がサポートされているのを知って いる人は少ない. 下は, 気合いクリックを使うための, XF86Config のマウスの 設定である.

Section "Pointer"
   Protocol        "PS/2"
   Device          "/dev/mouse"
   BaudRate        1200
   Emulate3Buttons
   Emulate3Timeout 250
   EnableKiaiClick
EndSection
気合いをこめてクリックすると, その気合いを Xサーバがクラ イアント(つまり, アプリケーション)に渡してくれる. Netscape Navigator は, ハッカーの製品であるから, 当然気合いをサポートしており, これは X版の Navigator でも同様である. Linux のプロトコルスタックは, カーネルバージョ ン 2からアプリケーションに於ける気合いが IPレイヤに透過的にアクセスでき るようになっているので, Navigator で気合いをこめてリンクをクリックする と, 気合いフラグがセットされた HTTP のリクエストが送信される. この時に用いる気合いが「びし」であることは, いうまでもない. 誤って, 「ほげ」とか「ふに」などの気合いを使ってしまうと, 「腑抜けフラグ」がセットされる. apache 1.3.3 はデフォルトの設定で腑抜けリ クエストを無視するので, 注意が必要だ. Navigator でのクリックは「びし」である.

気合いを実装していないサーバに, 気合いフラグをセットしたパケットを送信す ると, 一部の「ま」の付く会社のサーバはクラッシュする事が知られている. 気合いパッチがホットフィクスとして配布されているが, それは単に気合いフラグを無視するというもので, 気合いの実装からは程遠いも のである. しかし, 「ま」の付く会社は例によってスケーラブルな気合いソルー ションを実現した, などとホラを吹き, 専門家からバカにされている.

気合いをこめたパケットは, そうでないパケットよりも先に到達するし, 到達したホストでは, プロセスの優先度が -20に設定されるので, 何かと便利で ある. しかし, 気合いをこめた複数のパケットを処理するのは, まだまだ技術的 な困難も多く, 気合いで乗り切らねばならない事も多い.