危ない人


人間の欲望は多様だ. しかし, その多様さに着目した研究は少ない. 欲望は他の人に迷惑をかける事もあるので, そういう種類の欲望は, まだしも研究されていると言える. たとえば, 快楽殺人とかね.

危険を愛する人が居る. 正確に言うと, 危険自体が好きなわけではない. 恐怖が去った後には, すさまじい快楽が押し寄せて来る. それが止められなくなってしまい, 危険と快楽が完全に結び付いてしまうのだ. 恐怖は, 通常けっして使われる事の無い異常な集中力も生み出す. 恐怖が去った後の快楽は, 異常な集中の後の弛緩とも, 密接に関連している.

危険を愛する人には, 普通の暮らしはフラットノイズであり, 耐えがたいものだ. 死なないと判っていると全然恐怖を感じないので, 異常な集中を必要とする状況を求めて危険な状況にとびこむ. すると, 当然ながら, その何人かは死んでしまうのだ. 死ぬのは本人だけだから別に問題は無いわけで, このへんが, 危険を愛する人の研究が全くなされない事情であろう.

勇気ある人というと称賛されることもあるが, 背後にこのような病理が隠されている場合もあると, 俺は考えている. 才能と病理を安易に結び付けるのはロマン派の悪い癖だが, 一方, 実際そういう人が自分を含めて身近に何人も居るという現実もある.