わりかしウィスキーが好きなんですが, その理由は, 単にサントリーに洗脳されただけなんですけど. じゃあ今回は, その洗脳の話でも書くか.
洗脳とはおだやかではないが, まあ聞け. サントリーは甲斐コマの近所に蒸留所を持っている. 甲斐駒というのは, 甲府の南西にある, 南アルプス北端のでかくて 尖ったカッコイイ山である. 白州蒸留所というそうだ. 多分, スコットランドのハイランドと似た感じのところを捜して, ここになったのだろう. 山崎に工場があることは知っているが, こんなところにもあるとは知らなんだ.
なんでそんな話になるかというと, 甲斐コマの周辺といえば, アイスクライミングである. そんなこと言ってんのは JECC(わしの居る 山岳会) の連中だけか. まあいい. とにかく, あのへんは, 寒いわりには雪が降らないので, 沢が凍り付いてアイスクライミングに具合が良いのだ. 雪が降らないというのは重要な事で, 雪が降ったら, いくら寒くても氷が雪に埋まって単なる坂になってしまうだけで はなく, 沢は雪崩の通り道であるから, 全くお話しにならないのだ.
スコットランドにも, ハイランドのはしっこ, 大西洋側に Ben Nevis という山(というか崖?)があり, ちょっと特殊なアイスクライミングの名所となっているが, 近所にクライミングの名所があるというところも, ハイランドと ロケーション的に, 若干共通しているのである. まあ, これは偶然だろうが.
結構しょっちゅう甲斐駒周辺には来てるくせに, まだテッペンには一度も行った ことがないんですよ. その日も, わしは JECC で氷を登りに来ていた. しかし, 冷え込みがイマイチで, 目当ての滝は凍ってなかった. もちろん, 沢登りという季節でもないので, クライミングはあっさり諦め, 全面的に目標を失い, 何故かサントリーの工場を見学することになったのだった.
工場は, 甲斐コマというよりは隣の鋸岳方面にあって, 沢の扇状地みたいなとこ ろに建っていた. 無闇にでかくて, あとで聞いたらそのほとんどは酒の貯蔵庫な のだった. 見学コースは一日に何回かあるらしく, 申し込んでからしばらく待ってたら, ス タートした. 綺麗なお姉さんが手慣れた説明であちこち連れ回してくれるのだが, なんせ, 無闇に広いもので, 移動はバスだ.
まあとにかく, ウィスキーを作るのは, どえらい手間である. 多分, 酒を作るのは, どれも大変なんだろうが, ウィスキーを作るのは少なくとも非常に大変だ. 昔, 密造してたらしいが, おおっぴらにやってもこんなに大変なのに, そこまでして作るか? と疑いたくなるほど, 大変だ. 工程は, どっかサントリーのサイトでも行けば説明があるだろうから, 俺がいい加減な説明を書いてもしょうがあるまい. とにかくめんどくさいのだ. 全工程の 1/3 くらいのところで, 飲んだら十分酔っ払うものが既にできているにも かかわらず, それは完成じゃあないんですねえ. えらい辛抱ですわ. 話を聞く限りでは, 理解不能である.
見学コースの最後に, ラウンジで一杯のませてくれる.
そこで飲ませてくれたのは, サントリーの最高の製品ばかりだった. なんせ, 洗脳ツアーだから, まずいものを飲ませたんじゃあ, 話にならんわけで. ところで, そこで何種類か飲んだうち, 全てにおいてズバぬけて最強のものがあった. 何でしょう?
蒸留所にはそれぞれ個性があって, 立地条件とか, 蒸留方式とか, 仕切ってるオヤジの段取りとかで, いろんな傾向ができる. そういういろんな酒をうまい具合に混ぜ合わせて, アルコール度数を 40度に調整し, 製品が完成する. こうすることで, 極端な個性や品質のバラつきを 無くし, 洗練された万人向けのものを作ることができるらしい.
ということになると, 混ぜるまえの, 「材料」の方を試してみたいというのが, 自然な発想であろう. そう. その, 最強君こそ, ブレンドするまえの原酒だったのである. アルコール度数 57度にもかかわらず, グラスからは鼻を突くアルコール臭は, 全くしない. 何か怪しい甘い臭いがするのだ. そして, 口に含むと強烈な煙の臭いと, 何かよくわかんない甘い味(麦芽の味か な?)がする. てゆうか, 味も臭いも全てが濃いです. ブレンドした製品とは, DOS と Linux くらい違います.
とかいって, 何種類も飲みまくっていたら, たちまちグルグル状態に突入した. ビールをコップに一杯でグルグルになるわしである. もともと, 精神系の薬物には非常に弱い体質で, たまにコーヒー飲むと, むちゃくちゃに効きまくり, 手が細かく震えてキーボード打つのに難儀する. 何杯飲んだか忘れたが, 通常の尺度で言えば, 絶対にゲロ確定の量である事は確 かだ. 全部ストレートで飲んでたし. 顔面蒼白で動悸はとまらず, 地球の自転を感じとれるようになり, 「ピピッ」と電波聞こえ状態に突入した. ニュータイプとして覚醒して, しまいにはララァを失ったシャアの悲しみまでも解るようになった. ララァ, 私を導いてくれ! 強化しすぎではないのか? それはエゴだよ! うわああああっ! < ニュータイプ喋りで読むこと.
これが不思議なことに, しばらくぶっ倒れて水を何杯か飲んだら, 強化しすぎのニュータイプからゲロも頭痛も無しに, ケロっと真人間になおってしまったのだから, まったく, すげえもんです. つうか, あれが薬物の高揚感なんですねえ. マジで効きました. 最高に気分いいです. わしは昔から, 酔っ払うと次の日は昔傷めた関節が痛んだりして, かなり嫌な気分を味わうのだが, あれだけグルグルになっていたにも 関わらず, 変な後遺症も全く無く, 夕方には完全にシラフになっていた.
それから, わしは小さい瓶に, その原酒を詰めて冬山に行くようになった. 一人テントで寝袋にもぐりこんで, 本を読みながら, あるいは寝入りばなに これを飲むのが, 非常に具合が良いのです. たまに, 「自前」とかいいながら飲み会にも持って行きます.
今飲んでいる分が無くなりそうなので, 件の原酒を近所の酒屋に注文したら, 2本入荷した. 酒屋のオヤジは, 「贈物ですか?」とか俺に聞いてたが, 馬鹿な奴だ. なんでこんなうまいもん, 他人にくれてやるわけ? 自分が飲むに決まっとるやろ.
評価版で味をしめさせて, 手放せなくなった頃にライセンスが切れ, 製品が売れるという手口があるが, それにすっかりはまっている私なのでありました. アル中の気持が, ちょっと判る. てゆうか, サントリーも, あいかわらず商売うまいのう. ん. それもちょっと違うか. 俺は, 白州蒸留所の原酒のファンなのであり, 他の製品には興味無いんだよね.