X 計画とテストパイロット


やっと ライトスタッフが見れた. ええ話じゃのう. こりゃええ話です.

アメリカ空軍や航空宇宙局の実験とかで, 飛行装置を実際に操作して実験を行う立場の 熟練パイロットが居る. テストパイロットと呼ばれる人々だ. 人類で最初に音速を突破した, Charles Yeager もその一人だが, 初期の宇宙飛行士は, ほとんどがテストパイロットだった.

宇宙計画は, ロケットに実際に乗ってくれる命知らずでタフな人を必要とした. テストパイロットは, 国家的大プロジェクトの, 極めて本質的な最後のひと駒を つとめたのだった. 宇宙計画には多数の人々が参加し, しかも計画の遂行自体が目的なので, それぞ れ参加する人々の強烈なエゴがぶつかって, なかなかおもしろい.

宇宙船を動かすのはパイロットだが, それを作って, 飛行計画を考えるのは科学 者だ. ロケット技術者や, 宇宙計画に参加する科学者は, いうまでもなく, 彼等自身も宇宙に行きたい人々である. そもそも, 自然科学を志すもので, 宇宙に行ってみたいと思わぬ者があろうか? ライトスタッフでは, 科学者とパイロットの確執も描かれており, そのへんもなかなか興味深い. もちろん, 両方できれば非常に都合が良いわけで, アポロ計画では実際に, ぶっつけ本番でランデブーの軌道を作ることができた奇 特な宇宙飛行士も居たという.

科学者は, せっかく自分が作ったロケットだから, ほんとうは 自分が乗って行きたいわけだ. だから, 実際に乗る立場にあるパイロットたちが羨ましいのであり, それゆえ「パイロットなんて, おれたちの言う通りにする人形さ」 という立場をとったりすることもあったようだ.

宇宙飛行士に必要なのは, ストレスに耐える力や, 協調性, 体力, 知能, 健康など, 数え上げればキリがないが, それ以外に「宇宙体験を省察する哲学的センス」に焦点を当てたのは, わしの知る限り立花隆が最初である. 立花隆は宇宙計画に限らず何でも詳しいが, 彼の「宇宙からの帰還」は 宇宙体験で人生変わっちゃった人を, 内的な意味から取材した本で, 非常に面白い.

宇宙飛行は目立つが, その他に基礎的な航空実験も NASA では着々と行われてい たのだ. マーキュリー計画の頃は, X-15 が飛んでいたのである.

X-15 は, ある意味で X-1 の後継実験機である. その目標は, 高高度, 高速下の飛行物体に関する基礎的なデータを実地に集める ことにあった. また, 後には大気圏外の科学実験にも使われた. 当時は, 今と違って複合材料も無いし, 便利で強力な計算機もない. そういう条件で, 高度記録 10万m スピードは Mach7 を記録したこの機体は, 高度 12000m から B-52 より投下され, ロケットエンジンを 80秒から 120秒噴 射して上昇した. 帰りは動力飛行ではなく滑空で, 着陸スピードは 時速 400Km 近い. 着陸装置はタイヤではなくソリである.

普段はハネを使って, 普通の航空力学に従って飛んでるわけだが, 高度 10万メートルでは, 控え目に言っても空気は十分とは言えないので, ハネが役に立たないのである. (だから, ロケットにはハネが付いてない) しかし, 適切な姿勢を保ってないと, 帰りにちゃんと滑空できなくなってしまう し, 安定して前進することもできない. そこで, X-15は, 空気が薄いところでも操縦できるように, 機首に小さなロケットモータを 8個持っていた. 空気が無いときは, これを使って弾道制御して姿勢や方向を保ったのである. ミサイルとおなじだね. X-15 の操縦席には, このロケットモータのコントローラが, 操縦棹の向こうに 付いている. pitch roll yaw の3つのスイッチがあり, パイロットは大気圏外 ではこれをカチカチやって操縦したのだ. さすがは先端の乗物だね. Mach 7 で平気な材料は, 当時は無かったので, 特殊な塗料が空気との摩擦で蒸発することで, 熱を逃すようになっていた.

思うに, 宇宙飛行士をテストパイロットにやらせるのは, なかなか良いアイデア だ. テストパイロットは, もちろん飛行機を飛ばすのがうまくないといけないが, それだけでは十分ではない. 乗ったことのない機体や装置を扱うのが仕事だから, 新しい事態を素早く認識して的確な対応ができる, というのが, もっとも重要だ. こういう能力は訓練で身に付かないものの典型だ. ズバリ才能だけですね. 宇宙飛行も大冒険だ. 何が起きるか判らない. だから, そういう才能をテストパイロットの中から捜すというのは, なかなか理屈にあった選択だったと思う.

X-15 は全長 15m 翼端長 6.6m 乾燥重量 6350Kg 全備重量 15440Kg (つまり燃料が 10トン). ロケットモータの出力は 実に 25880Kg に達した. 現役期間は 1959年から 1968年まで. アポロ 11 の船長で有名な Niel Armstrong も X-15 のパイロットだった. X15 をうしろからみたところ.