GIMP-1.1 のツボ


まだそのポテンシャルを全部は引き出してないのだが, 最近, なにかにつけて使っているうちに, 徐々にわかってきたところを 幾つか紹介しよう.

わしは今でこそ Linux 確信犯で, www.linux.or.jp の webmasters なんかやっているが, 実際にはプログラムはほとんど書きません/ 書けません. それゆえフリーソフトのプロジェクトに何か貢献があるかというと, 一切そういうものは無いのだよ. 自称, Hellow Worlder すなわち, いろんな言語に手を出すが, 全部 Hellow World どまりであるという. 手を出した言語を思い付くまま並べてみると, Basic に始まり, x86 アセンブラ, pascal, C, scheme, common LISP, Emacs LISP, bash script, perl, JavaScript, php3 と全部挫折あるいは挫折し つつあるわけでして. 要するに, 才能が無いのじゃ.

なんせ, Linux 使うまでは, 「 photoshop 使いたいから, 気に入らないけど Mac 買うか」とか考えてた奴だからのう. 学部では UNIX上でプログラムを書かされたが, そのせいで, 一時期かなり UNIX が嫌いだった. なんせ, DOS より不便に思えたもんね. 今にして思えば, なんつう失礼な奴だろうと残悔の極みだが, 主に `VZ エディタ' がなかったせいで. まあ, 自分で書いたタコなプログラムが暴走して処理が帰って来ない時に, もう一個 xterm 起動して kill できるのは凄いと思いましたが, なんせ, grep とかそういう便利なもんを誰も教えてくれないんだもん. それでエディタが vi だから, そりゃしょーもない課題でも徹夜になるわな.

pc-unix が無かった当時の汎用プログラマブルマシンをめぐる状況は, かなり悲惨なものだった. 今も, もし Linux が存在していなければ, 俺はパソコンを使っていたかどうか, 非常にあやしいと思うのである. なぜなら, 学校に存在しているのは全然使えねえ BSD系の unix で, ヒストリを呼び出すのに !-2 とかやんないといけない Plain Csh と栄光の vi を使うことを余儀なくされ, 一般人に入手可能なマシンは

しかなかったからである. どれも使う気になれないアレなシステムだよ. 386 のプロテクトモードに全然が関係なく, あいかわらず 1MB のアドレス空間 しかない奴とか, twm と xfm を足して, unix の強力な shell とファイルシ ステムを引き算した 3.x とか, 何かすると寝る程遅い上に鼻血が出る程高い りんごじゃあね. そんなわけで, 当時のわしは情報科学という学科に居たにも関わらず, 「コンピュータというのは, Model2基板で動く Virtua-Fighter2 の 事である」と断言して憚らぬ, 糞野郎じゃった. 変な日本語.

まあ, 今では必要に応じてしょうもないプログラムは書くし, フリーソフトで気に入らないところは直して使うくらいの事はするが, 人に見せるようなものは無い. 専ら, 偉い人が超気合いで作った, 超スゲエプログラムを wget そして

./configure && make && make install
する日々を送っているわけなのだ. こんな糞ったれの俺だが, 100% ゴミとも言い切れない. コンピュータを使って, ちょっとばかし画が描けるからだ. なぜなら, 俺の超強まった digital HiNote UltraII には, 等がインストールしてあるからであり, さらには, パソコン使うまえから, 美術部などで作品を作ったりしており, などを一通りやってたからである. そこで, けっこうゲージュツ方面にも Linux というのは役に立つのだよ, ということをアピールできたら, 多少この世界に貢献できるかもなあ, とおもい, せっかく地味で身軽な www.linux.or.jp が糞重く, ブラウザ依存な 糞サイトにならない程度に png アニメのアイコンやら, 一部表紙の画とかを描いてる わけだ.

そこで, 今回はやや top-down 風に GIMP の使い方を紹介してみたい. unix のユーザは Ken Thompson を筆頭に bottom-uppers だからなあ. でも, 俺の経験からいって, 細かい技や機能をいちいち紹介されてもそれをどう使って良いのかわかんねえもんだからね.

gimp で画を描く時は, 手で紙に描くのに比べて, 入/出力装置が使いにくい という点で具合が悪く, 製作の段取りと言う点で自由度が高くて具合がいい.

エンピツやペンとは比較にならないほど, タブレットもマウスも使いにくい. 右手にエンピツ, 左手に消しゴム, デキを確認するために画面をちょいと廻したり傾けたり. そんな事も出来ぬうえに, どんなにでかくても, あの狭いディスプレイの中だ. 筆圧を強くしても弱くしても, 手への物理的なフィードバックが全く無いので, いったいどうやって描いたらいいものやら. そのうえ, ベジェ曲線と来た日には, 全く途方に暮れるよな. したがって, GIMP で画を描くということは, これらの特殊な入力装置で画を描 くということであり, そのためにはある程度の訓練が必要なのだ.

道具が違うから勝手も違うということだ. 「新しい道具に慣れる」ということの 重要性は当り前なんだけど, 意外と見落とされているところだ. しかしながら, 当然, おおいに共通するところもある. それは, 「描く前に, (あるいは描きながら)何を描きたいのかはっきりさせる」ということだ. あたりまえか. しかしながら, 俺が思うにこれがどれくらい明確で, 際だったものになるかどう かで, 画がうまいか下手かが決まるのである. 始めにコンセプトありき, じゃ.

描きたいものが決まったら, だいたい画面の構成も決まるじゃろう. もっとも, 自分が何を描きたいのか. あるいは, その描きたいものを元に, どうやって画面を構成するのかは,

という訓練を積むしか解決するすべはないのだ. 今まで画を描いたことがなくて, GIMPでデビューするひとも, やっぱりある程 度の練習は必要だということだね. そりゃ何でも, イキナリうまくいくわけないよ.

GIMP に限らず, コンピュータで画を描くときは独特のへんてこな用語が壁にな ることも多い.
alpha channel透明度
layer透明セロファンに画を描いたものに相当する仕掛け
channel選択範囲をとっておき, いじくるための仕掛け
script-fuGIMP のマクロ. schemeでできている.
hue色相. 赤, 青, 黄色の配合比率
saturation彩度. 色の鮮やかさ. 0 で灰色
render (プログラムなどが)実際に画像を作成すること. または, そのプロセス.

GIMP で画を描く時のだいたいの原則は, 考えた画面の構成に基づいて, 「向こうにあるものを下のレイヤに描く」だ. レイヤは場合によるが, 大抵は透明にしとけばいい. 別に, 向こうにあるものから描き始めないといかんということはないぞ. 描く順番はどうでもいいのだ. これがコンピュータを使う, 良いところ. 紙に描くよりも段取りがええかげんでも良いのだ. 「やっぱこれは手前に置こう」とおもったら, いつでもレイヤを上に持って来れ ばいいわけでしてね. というわけで, 出しておくべき窓は,

である. gimp-1.1.7 以降(*)にはセッションマネジメントがあり, 終了したときの窓の 配置を憶えてるので, とても便利になった.

基本的には, 「違う物体は違うレイヤ」に作るべきだ. そんなことやってたら, レイヤが 50個くらいできて, 発狂じゃ. とおもうかも しれないが, 意外とそうでもない. というのは, 完全に透明でないところを 移動ツールでいじくったら, その透明でないモノが乗っかっているレイヤが勝手にアクティブになるからだ. これは, 0.99.10 から備わっている機能だから, 大いに活用しよう. モノができてくれば, いつまでも別のレイヤのままじゃあ作業しにくいのでレイ ヤを統合しよう. これも新しく追加された merge down を使えば楽勝だ. だから, メモリの許す限りレイヤを作りまくれ!

よく使う機能に関しては, キーボードショートカットを作成しよう. キーボードショートカットの作成は, めちゃめちゃに簡単だ. これは, gimp-0.99.x の時からあった機能なのだが, 意外と知られていないの で, どんどん紹介していきたい.

ショートカットキーの作成は, 何か出したメニューを選択している, つまりそこにポインタが来ている状態で, 「このキーに割り当てよう」と思う キーをタイプするだけでいいのだ. 選んだメニュー右に, 直ちにそのキーが表示され, 「割り当てられました」という感じになるでしょう. モディファイア(Alt とか Ctl とか shift とか)は何でも使い放題で, Ctl+Alt+Del とかを割り当てるこ ともできるぞ. もっとも, このキーを OS が先取りしてなければ, の話だがな. しかも, ショートカットキー は, 割り当てた瞬間から, 直ちに使用可能なのである. むちゃむちゃ楽勝やんけ. 割り当てたキーは ~/.gimp-1.1/menurc に勝手に書き込まれて, 次に起動したときにちゃんと憶えてるぞ.

同じキーを違う機能に割り当てると, 先に割り当てられてたキーは消滅し, 後か ら割り当てた物だけが生き残る. これを利用して, うざいショートカットを消す こともできる. だから, GIMP を使うときの正しい姿勢は, 利き腕にポインティングデバイス. 他の手でキーボードだ. 俺がキーボードから速攻で呼び出せた方が良いと思うのは,

である. それぞれ何等かのキーバインドがなされているだろうが, これを全部簡 単に左手から呼び出せるキーバインドに割り当て直した. 切り貼りは Emacs と同じキーバインドにしてある. 憶えるのは最小限にしたい からのう.

色選択は, 今や何種類もあるから, 気に入ったものを使えば良い. しかしながら, 普通に色を塗ったりする用途に限って言えば, わしとしては, 某Painter風の三角形(右から2番め)にとどめをさすようじゃ. これが最も使いやすい. ただし, 同系色で明度あるいは彩度だけを変えて幾つか 使いたいという場合が, 影やハイライトをつけたりなどで, けっこうある. そんなときは gimp-1.0 からおなじみの, 某photoshop 風のアレ(一番左)の方がナイスな場合も. 一番右側の GTK というのは GNOME と d+d できて色の設定などに使えるので, デスクトップの背景とコーディネイトしたいときに便利. fa75e0 とか憶えたり, いちいち bc で 16進と10進を計算するのは嫌でしょう.

選択範囲をちょちょいといじくるくらいなら, 今まではいちいち Edit/Save to channel だったのだが, gimp-1.1.7 からクイックマスクというものができた. イメージ画面左下の赤いボタンである. 何か選択した状態で赤ボタンを押すと, 画面が赤くなる. 選択してたところだけ は, 赤くなってない. そこで, ブラシだろうがインクだろうが塗りつぶしだろう が描画ツールなら何でもいいのだが, それを使って今までのチャンネルの編集と同じ要領で, 黒を塗ればそこが非選択になり, 白を塗れば選択になるわけだよ. 白で広げたり, 黒で狭めたり, ボカシかけたりして クイックマスクを編集し終ったら, 赤ボタンの左の破線ボタンを押すと, クイックマスクを元に選択されるのだ. なんて便利! 編集した選択範囲が気に入らなければいつでも赤ボタンでマスクに戻れる. こりゃあスゲエぜ! ちょいと選択範囲をいじる場合に, どんどん活用しよう!

「ああ!さっきレイヤをくっつけちまったのは, 失敗だった!」という事も多いので, undo は沢山に設定しておこう. 通常, 20個くらい undo できれば十分だろう. File/Preference/Interface で何個 undoするかを設定できるぞ. この設定は, 次に GIMPを起動したときから有効だから気を付けろ. デフォルトはたったの 5個だぞ.

ウィンドマネージャで, 「手前の窓を向こうへ廻す」というのを, 左手(左利きなら右手)だけで呼び出せるキーに登録しておこう. どんなに画面が広くてもイメージ表示窓は最大化して使いたいものだが, そうなると, 向こうにあるレイヤ窓などを直ちに操作できないと便利悪いからのう.

俺が GIMP でイラストめいたものを描く場合は, 形を描くのはもっぱらベジェだ. 1.1 でベジェを使う時は, レイヤ窓を パス表示にしておこう. アンカポイントを追加/削除, コントロールポイント/ アンカポイントを移動等が, 1.0 に比べると飛躍的にわかりやすくやりやすく なった. だいたいの形をコレで描いといて, ちょちょいとブラシやインクで手を入れれば, わりかし簡単に思った形をデッサンすることができるぞ. しかも, パスをそのま ま残しとけばいつでも, 描いた範囲を選択, 輪郭をつけたり, 塗りつぶしたりそ の他, 自由自在だ. これができない 1.0は, ちと使うに耐えんのう.

GIMP とかで画を描いてて良いなあとおもうのは, 背景を最後に描けばいいところだ. 背景は, 全然何にも考えてなくても, 最後にテキトーに今まで描いたものに合う 背景を作ればいいのだ. これは, 紙に画を描くのとはだいぶ違う段取りである. 思うに, GIMPでイラストを描くというのは, シルクスクリーンに段取り的に近 いものがある. 色の重ねとか, 製版の段取りもそうだし, 製版まえの原版作りも, かなりプロセ ス的に似ている. 背景に関して言えば, シルクスクリーンでは, 印刷する段になって, 「やっぱこの紙, ダセエな」とか いって, 別の紙に印刷することもできるが, そんな感じだ. GIMPでは, 背景なんかどうにでもなるのだ. 普通, 背景から思い付く奴は居ないでしょう. だから, 思い付くものから自由に画を描こう.

さっき「シルクに近い」といったが, これはシルクの原版製作にも 非常に便利な性質で, プリントゴッコその他シルクスクリーンの原版を, 最終的に 1版 1レイヤになるように製作してプリンタから印刷すればそのま まシルクの写真製版に使える. レイヤの順番に刷れば, 思った通りのものが出来る(かも). 原版を作るときは, 版の合わせのためのガイド線を書き込んどくのを忘れな いように. こんなときはルーラが役に立つ. ルーラは, 移動ツールを選択し て, イメージ表示窓の上辺または左辺の定規のところをクリックして, そのまま画像の方へドラッグすれば怪しい直線として出現する. この直線には, レイヤのはしっこやブラシなどを吸い付ける作用があり, きちんと合わせたいときなどにありがたい. ガイドを書き込めるためには, 印刷サイズよりもイメージサイズを大きく作 る必要がある. まあ, このへんは印刷物を作ってる人には当り前なんですがね. 大抵のシルクの版なら, 72dpiで製作して構わない. それから, 俺の経験からいくと, GIMP でシルクの原版を作ったときは, 使うインクの不透明度によく注意した方が良いようだ.

描いてる途中でセーブしたい時は, xcf フォーマットを選ぼう. レイヤとかパスとかを全部セーブしてくれる. かなりファイルがでかくなりがちなので, セーブと同時にgzip 圧縮や bzip2 圧 縮することもできるが, 最近のドライブには要らないかもね.

描いてて「ん?いまいちかな?」と思ったら, 遠慮無く最初からやり直そう. 実際にものに描くのに比べて GIMP の場合はやり直しも比較にならな いくらい簡単だ. 切り貼りが使えるからね. とにかく, コンピュータで画を描くのは, 紙に描くのとかに比べて非常に手軽だ. 何回やりなおしても紙が無駄になることも無いし, 画材を買って来なくても良い (そのかわり, ダウンロードとかコンパイルとかしないといけないが). 紙に描く時は, まず画材を引っ張りだしてこないといけないが, こっちは GIMP を起動するだけでいい. 後かたづけも要らない(これが, 俺には嬉しい!). セーブして, プログラムを終了するだけだ. 掃除したり片付けたり, 手を洗ったり服が汚れたり, とにかくかなりめんどくさいからね. まあ, それが楽しいんだけど.

「まずは描け」である. それから考えろ. とにかく, 深く考えずに使え! なんせ, すげぇ プログラムなんだから. サッカー見ててもサッカーできるようにならないのと同じで, 画を見てるだけじゃあ描けるようにはならないのだ. あ, プログラムも同じか.

アナウンスによれば, 8/18 から 1.2リリースに向けて, feature freeze に入 るそうな. 1.2 のリリースは, 年末に予定されているそうです.


(*)1.1.7以前にもあったが, レイヤ窓を出したままにして終了すると 次に起動したときにファイルを読み込むと, 読み込み終って表示しようとい うところで凍って死ぬ.