最後の恐竜と, 運命の底無し沼:
The Last Dinosaur and the Tarpits of Doom:


あるいは, Linux は Windows をどのようにして粉砕したか
How Linux Smashed Windows

cynbe@muq.org


翻訳 藤田裕二(yuji@waragai-lab.hss.titech.ac.jp)

もし, あなたが Microsoft に投資しているとしたら, 注意したほうがいい. もういちど言おう. よく警戒したほうがいい. 2010 年には, CP/M みたいに Windows は朽ち果てるだろう. そして現在の Windows 関係のソフトウェア会社は Linux をサポートするようにな るか, あるいは消えて行くかのどちらかだろう.

このプロセスは, すでに 8割がた完結している. その結末は, 先見性のある経営者にはすでに明らかだろうし, メイン・ストリームの報道関係者にも, 間もなく明白に認識されるようになるだ ろう.

本稿の目標は, 明白な証拠をあつめ, 傾向を予測し, こういった傾向の原動力となっ ている力を検証することにある.

指数関数を予測するには?

ハインラインは, 1952年の "Where to?" という評論で, 指数関数曲線を予測する 4つのやりかたを述べている. 例えば, この 10 年間というもの, "Linux" という OS が半年ごとにマーケットシェアを 2倍ずつ拡大しているとし よう. そして, デスクトップ市場で 2.5% のシェアを獲得するに至った. アナリストは, この曲線をどのように評価すべきだろうか?

さらに, つぎの事実に注目してほしい. Linux がサーバ市場で 10% のシェアに到達した瞬間, メインストリームのサーバソフトウェア会社は流れに乗り遅れまいと, 慌てて飛 び込んで来たのだった. つまり, デスクトップ市場でも 10% のシェアに到達した瞬間に, デスクトップ 関連のソフトウェア会社に関して同じ事が起こるだろうというのは, それほど唐 突な仮定ではないはずだ. ようするに, 10% のシェアは市場の住民の注意を喚起するのに十分だろうこと だ. 2000年あたりにはこの, 雪崩現象がデスクトップ市場でも起きると考えて差 し支えない.

算数の問題. Linux が倍増するのにかかる時間は?

本稿では, もっと控え目に, 一年で 4倍. 半年で 2倍という数値を採用すること にしよう. その方が計算も簡単だし. 4ヶ月で 2倍という数値にしたがって計算 しなおしてみるのもいいだろう.

観察: レースは終った.

指数関数的なプロセスでは, 倍増するのにかかるエネルギーは, いつも同じだ. Linux は, もう 24回も倍増プロセスを達成してきた. デスクトップ市場の制覇 には, 合計 29 ないし 30回の倍増プロセスをこなす必要がある. したがって, 全部で 30周のレースで, もう 24周, つまり, 80% は終ったとい うことだ.

レース が80% 終った段階で, 走者がずっこけて, 失格すると予測するのは, よっ ぽど大胆なアナリストだといえるだろう.

数の神秘の裏側.

明白な事実をつみあげて, 単純な数学的予測を立てるというのと, それを理解するということは, 別だ. 何故, Linux は 市場で Windows を粉砕しつつあるのだろう?

歴史探訪: Open Standard のブルドーザー

Linux が Windows を粉砕するという現象は 特殊なものではない. この 4半世紀の業界の動きの一環でしかなく, 単なる不可抗力とさえいえる, と考えればわかりやすい.

1970年, 計算機業界は, あらゆる面において, 排他的な商用の標準に牛耳られていた.

ASCII ははるかかなたの夢でしかなかった. どのコンピュータも, 自社の端末でしか通用しない, 勝手なテキストコードを使ってい た. 製造者の異なるコンピュータ間で, テキストファイルをやりとりするというのは, 絶望的な事だった. 主だったコンピュータ会社は, 互換性の無いテキストコードをいくつも抱えてい た. たとえば, IBM は EBCDIC とその一族, DEC は sixbit と radix50 といっ た具合いだ. もしあなたがヘソまがりで, 複数のブランドのコンピュータでテキストの互換性 を実現したいとおもったら, 小文字などの*危険な*拡張は避けねばならない. また, コンマとピリオド以外の特殊記号を使おうなどとは, 夢にも思ってはいけない.

1970年には, 原始的で商用の operating system が, 全能の恐竜の如く世界を 睥睨していた. Prime の PrimeOS に DEC の RSTS, RT-11 と tc(なんじゃこりゃ?) それに, VAX と VMS . IBM の数え切れない程の製品. CDC の Scope, そしてもちろん, 科学計算用ワークステーションの市場では, Apollo の Domain が.

そのころ, 一体誰がこれら巨人たちの終焉を予測しただろう?

何がこれら難攻不落の, 巨大資本とハッカー文化とユーザの忠誠心 に後押しされた operating system の足元をすくったのだろう?

もちろん, 今日, われわれはその答えを知っている.

1975年. ベル研は Unix をリリースした.

1989年の 4月12日. HP は Apollo をバーゲン価格で引き取り, ワークステーションの世界で, 最後に残った商用の OS の哀れな最期に幕を下 ろした. ワークステーションの世界では, 商用の OS の時代は終ったのだ. Unix だけがワークステーションで生き残った.

15年の間に, 磁気テープとアイデアが, その競争相手を効果的に打ちのめし た. ワークステーションのベンダは, Unix をサポートするか, さもなければ店 じまいをするのだった. (もうすこし大きな恐竜は, すき間的な地位を占めて生き残った. VAX/VMS は, 今も利用することができる. OpenVMS は, 多少なりと も Unix ぽくなろうと苦労した変異種だ. また, 今も ヴィンテージものの Apollo のハードウェアで, どこかの御隠居が Domain を動かしていることだろう. ボストン コンピュータ博物館では, これら計算機界の生きた化石を保存してい る. )

これらの恐竜たちを一方的に絶滅させたものは, 一体何だったのか?

それは, Open Standard とユーザの選択だ.

排他的な独占は, ベンダには利益が大きい一方, ユーザにとっては高くつくので, 選択の余地のある場合は, ユーザは Open Standard と自由競争を選択する. そして遅かれ早かれ, 努力した幾つかのベンダがユーザに選択の余地を提供する ようになる.

成熟したワークステーションの市場では, 最終的には, 業界全体で通用する Open Standard こそが最良の選択肢であると認識されたのだった. そして, 全てのベンダは, 競争に参加するか, さもなければ店をたたんだのであ る. 端末のメーカから(ASCII を採用するか, さもなくば, 倒産), ネットワークのベ ンダ(TCP/IP か, さもなくば倒産), そして OS のベンダ (Unix か, 倒産の 2択).

マイクロコンピュータ:ロストワールド

だが, ワークステーションの世界で聖ユニクス が排他的な商用の恐竜どもを殲滅していた時にも, マイクロコンピュー タの世界では, またしても同じ歴史が繰り返されようとしていた.

1960年. DEC はミニコン PDP-1 を発表し, 1963年には PDP-8 を 4Kバイ トのメモリを搭載して発表した. 1975年には, MITS は ALTAIR 8800 マイクロコンピュータを 256バイトのメモ リを搭載して発表した.

ディスクと高級言語が当たり前になった時代に, テープからアセンブラで書 かれた OS を読み込む喜びを再び味わえるようになったのだ!

そしてそれ以後, マイクロコンピュータはワークステーションの辿った道の りを, 15年遅れて繰り返す事となった.

この事実だけに基づくならば, 手抜きのアナリストは 1989年がワークステー ションでの排他的 OS の最後の年だったことから, 2004年をマイクロコンピュー タの排他的 OS の最後の年であると予測するだろう. しかしこれは, 指数関数に基づいて, Linux がデスクトップ市場を席 圏すると予測される 2002年と, 奇妙にもよく一致している.

もうひとつ, 歴史に基づく安直な予測がある. ちょうどワークステーションの商用の OS への弔鐘が, 連邦政府のワークステー ション調達に最して, 単一のベンダによる癒着的な solution ではなく POSIX などの Open Standard を採用するよう義務づける訴訟だったように, 連邦政府のマイク ロコンピュータ購入に際して, 単一のベンダによる癒着的な solution ではなく オープンな solution すなわち POSIX などを採用するよう義務づける訴訟はマ イクロコンピュータにおける商用の OS への最後の弔鐘となるだろう.

今日, かつてワークステーションにおいて 商用のソルーションよりも Open Standard を選択した, その当事者 たちは, 再び, マイクロコンピュータにおいて同じ選択を迫られている. そして, (驚くには値しないが)同じ決断を下しつつある. つまり, マイクロコンピュータにおいても, あらゆる領域で商用の solution は Open Standard にその地位を譲りつつある. TCP/IP のような Open Standard は IPX のような商用の標準を 急速に排除していきつつある. また, PCI のようなオープンなハードウェアの 規格は, 商用の Microchannel などを打ち負かしてゆく.

Microsoft はマイクロコンピュータ界における, 最大の恐竜であり, 商用の solution を推進している. そして, もう驚くには値しないだろうが, Open Standard の海に最後に飲み込まれてゆくのだ. ちょうどワークステーショ ンの商用の OS のベンダとして最高の地位を保っていた Apollo が最後まで頑 張ってから息を引き取ったように.

実際, 手負いのティラノサウルスのように, マイクロソフトは危険な存在で ありつづけるだろう. そして, その牙の届く限り, 敵を引き裂くだろう. だが, そのあがきのため, より一層泥沼の深みにはまってゆくのだ.

長期的で自己目的を持つ, 完全にユーザベースの製品に対して, 商用の solution をもってしては, マイクロソフトは, 次のよう な未来の可能性を切り売りして, ただ短期的に延命する事しか出来ない.

マイクロソフトが突然, 暗黒面を去り, 更生するということはありうる事だろう か? その昔には, こういうことがあった. DEC は以前, 「 Unix はインチキだ 」といってたのに, 突然, 「 ウチは, 業界最大の Unix ベンダです」と変身した経緯がある.

それとも, マイクロソフトは昔の Apollo のように徹底抗戦し, 宣伝銃をぶっ ぱなしながら討ち死にする覚悟なのだろうか?

それを推測する方法は無い. しかし, どっちにころんでも, 計算機業界からすれ ばそれは大差無いことだ. ただし, マイクロソフトの従業員と株主以外にとってはね.

今は, 最期の恐竜が沼にはまっていくのに任せておこう. それは, マイクロソフトの先輩たちが, 排他的な商用 OS 戦争でたどっていった, そっくり同じ運命なのだ.

しかし, なぜ Linux なのか?

Windows が死に絶え, Linux がその後釜に座るであろう事には, もう疑問の余 地はあまりないだろう. 単純な, 慣性の問題だ. Altavista の検索ヒット数を見てもらいたい.

Windows: 2,530,775 
Linux:     502,053 
Solaris:   251,513 
HP/UX:     105,833
FreeBSD:    81,781
MacOS:      70,851 
UnixWare:   23,386 
Ultrix:     15,133 
OpenBSD:    11,892 

歴史上のどの OS よりも, Linux の成長速度は速い. Windows を除外すると, 現時点で, 人々の関心の半分はすでに Linuxに向けら れている.

何故か?

理由の一つは, 単なるタイミングの問題だということだ. もし, Linus Torvalds が, あと 10年遅く生まれていたならば, freeBSD が今 の Linux と同じ位置に収まっていた事だろう.

しかし, もうひとつ, もっと興味深い答えがある. それは, Open Source 革命 だ. Internet の成長のおかげで, マイクロコンピュータの環境は, かつて, ワーク ステーションがたどった歴史よりも遥かにダイナミックに変化しており, 新たな 地平を開拓しつつある.

新しいアイデアを実現する際に, Open Standard は, より一層効率的な計算機 環境を実現してくれる. 標準が確立していれば, プログラムはインターフェースを組み合わせるだけ でできあがる. SSH(Secure Shell) の導入は, OS全体なんか入れ換えなくても telnet だけ入 れ換えれば完成だ. (訳註:このパラグラフは, 意味不明. 車輪の再発明を防げ るという事を言いたいのかな?)

プログラミングにかかる労力の削減は, 安くて優れたプログラムの誕生に繋がる. Open Source 革命は, このステップをもっと押し進める. ソースコードが利用可能であれば, telnet のようなプログラムを最初から書き 起こすよりも, 公開されているソースコードからちょいと拝借して, 必要な機能 を付け加えてやればいいのだ. そうすれば, おおいに無駄が省ける.

これに対して, かつてソースコードが排他的に所有されていた場合は, 大企業が ソフトウェア市場を独占できた. なぜならば, 彼等だけがソースコードを利用で き, 競争相手は最初からプログラムを書き起こさねばならなかったからだ. こうして顧客は独占によって不当に高い費用の支払を強いられ, ベンダは儲かり 顧客と経済は疲弊するというわけだ.

しかし, 今や Internet の成長によって, 足枷は無くなった. 共同作業は簡単で, 金銭的な負担もわずかなものだ. こうして, Linux の開発者の 母体は途方もなく成長した. Lnux の下に集結したプログラマの勢力(半年で倍になる)を前にしては, マイク ロソフトの活動すらも霞んで見える. また, 現存の公開されているソースコードベースは, 最大規模の企業と比肩でき るものだ. Linux のコードベースは 1億行あり, これは一行 100ドル換算 で 100億ドルの資産に相当する. 参考までに, Lotus や Apple は 20億ドルの市場規模を持っている. オラクルは 300億ドル. そして, マイクロソフトは 1000億ドルだ.

経済学的にいえば, Linux を会社と仮定した場合, 帳簿上は世界 第3位のソフ トウェア会社ということになる. つまり, マイクロソフト, オラクルの次であり, Autodesk などの会社よりも上位を占めることになる.

プログラムの開発力という点では, Linux はすでにマイクロソフトと比肩しう る力を持っており, まさにそれを遥かに抜き去ろうとしているところだ. もし, Linux が従来のソフトウェア会社だったとすれば, 世界最大の開発予算 を持った会社ということになる.

Linux のスケールにマイクロソフトが対抗する方法なんか, 想像もつかないので, すでに随分差がついてしまった, OS の性能と信頼性という点で, Windows が巻 き返すのは絶望的だ. ペンギンが立っていた場所に, 最後の恐竜が必死でたどり着いた時に は, ペンギンは地平線の遥かかなたといわけだ.

ソースコードが公開されているので, 大学や研究施設は Linux の開発部署になっ てしまっている. たとえば, NASA の Beowulf 計画のおかげで, Linux には数百ノードを持 つ, 今, すでに稼働しているスーパーコンピュータ環境がある. 数年のうちに, Linux で動作する 1000個の(おそらくは 数千の) cpu を持つスーパーコンピュータが実 現するだろう.

まったく, NASA や MIT, カリフォルニア工科大学 の研究所からは, 何が出て 来るか私には予想もつかない. しかし, それによって, Linux に大いなる進歩が賦与さ れるであろう事だけは確かだ.

新しい計算機業界の掟

これらは, ソフトウェア業界において, 次のような根本的な変革をもたらす. 生産的な企業は, Linux に乗っかればすでに 10億ドル相当, そして着実に倍増 してゆく資産を, 自力で生産 することなしに利用でき, 最大のソフトウェア開発者と同盟を結べるということ を理解している. これに反抗しても無駄だ. そして, 一旦 Linux が Windows のシェアを抜き去っ たならば, それはもう元には戻らないのだ.

未来は Linux のものだ!

これからは, 恐竜が滅亡し, その姿が永遠に失われてしまう前に, 大切に保存するという努力が必要な のだ.


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