八ヶ岳忘年会


今年も恒例の美術部探検隊忘年会が12/19 から 23 の日程で八ヶ岳で行われた. 20日夜に少し雪が降っただけで, 連日の好天に恵まれて, 事故もなく全日程を終 了した. 例年に比べて冷え込みは甘く, 雪も少ない.

わしは, 21日に東京に居ないといけない用事ができてしまい, 22朝からの参加 となった.

21夜の急行アルプスは, 空いてた. 茅野の駅でも, 跨線橋で寝ているのはわしを 含めて 3人だけ. 朝飯にスパゲティをちゃんと食べた. 箸を忘れたが, 隣で寝て た人に借りた.

バスを降りても全然寒くないし, 雪もない. 靴紐を結んですぐ出発した. 歩き始めは 07h00m. 45m でミノトを通過し, 水を補給して, 09h30mに赤岳鉱泉 着. 先発メンバーは, テント場でわしを待っていてくれた. 「いーす」とかいい つつ合流. ここで村瀬が来てないという事が発覚. 先発隊は, 俺が村瀬を連れて 来るもんだとおもっていたらしい. 俺は 20日は cpu を取り替えたり友達の冬山 装備調達のお助け, 21 は会議だったので, 村瀬がどうしているかなど知るわけ ないのである.

香港から来たクライマー sinix さん(俺の聞き取り)が, ツレが居ないのでわし らと一緒に行動する事になる. イノクマはここで帰り, わし, せき, たけし, 瀬田, 木下, sinix の 6人という大部隊で大同心沢大滝へ行った. 雪が無いのであちこち氷が出ていた. 大滝は今まで見たうちで一番小さく, 細かっ た. 通常, 右が水がひどいが, 今回もひどかった. 左しか登れないので, いっぺ んに 1人しか登れない.

大同心は木下の因縁のルートで, いままで何度も来て, 登れてないのである. 昨年は, ここでリードしていて 10m墜落している. 今回はリードで登り, 積年の怨みを晴らしたのだった. 途中にツララ気味の悪い所があったものの, 氷そのものは脆くなく, しっかりし ていた. 上部は傾斜がなく, 楽勝で, 垂直部分は 3mほどだった. とはいえ, わしはこのシーズン最初の氷ということもあって, なかなか辛かった. 全員登ったところで 16時. 全員懸垂したところで 日没となり, 暗くなってからテントに戻った.

夜の冷え込みも大した事はなかったが, 俺のマットは以前にもましてパンクで, ケツが非常に寒かった. バーナを置く台にスーパーで使う発泡スチロールのフネ を持って来たが, これはガソリンがかかると「しゅしゅしゅ」と熔けてしまうので全然 駄目だった.

冬山の夜は長い. 長い夜は読書に限る. 人に借りっぱなしの Jorge Luis Borges の El Libro de Arena 「砂の本」を 読む. Borges は無限という概念が好きだ. 幾つかの作品に, 無限, あるいは 終端の無い対象, または極めて大きな数が出て来る. 数学的には無限である事と終端が無い事は同一ではない. また, 幾ら大きかろう と具体的な数値は全て, たかだか有限だ. Borges が正確な現代数学に関する知 識を持っていたかどうか, わしは知らんが, 持っていなかったとしても, 無限と いう概念に関して直観的にかなり正確に理解していると思える. 「砂の本」は短篇集で, 最後に表題の短篇が収録されている. 無限の頁数を持つ本の話だ. なかなか面白い話だが, 無限であることと, でたら めであることが混同されている(ように思われた)のがやや気になった. それとも, 原著の表記は正確だが訳者がそれを正確 な日本語に変換できなかったのかもしれない(正確な日本語に移すためには, 正確な数学の知識が必要だ).

23朝も非常に良い天気だ. 今日は南沢で氷を登って, ミノト口でフロ入って帰る のだ. 南沢大滝は, 雪が無いためにむちゃくちゃでかかった. 例年よりずっとでかく, 途中のテラスで 20m はある. 上まで行けば 30m はある. 上部の傾斜は例年より も弱く見えたが, 氷がツララの集合体でしかなく, プロテクションが満足に取れ ない. また, アックスもアイゼンも, 優しく操作しないと全部崩れ落ちてしまう. そして, したでビレイしている奴にそれが降り注ぐのであった.

「なんか墜落しそうな気がするなあ」といいつつ俺がトップで登り始める. いつ もなら, ダガーボジションでたどりつけるテラスも, 傾斜の強いツララとかを登 らないとたどりつけない. そこまで 2本プロテクションをとっていた. 垂直部の下でプロテクションをばっちり決めて, 一気に 上部ツララを攻略するつもりだった. 垂直部が始まるところで左手の charlet をツララに引っかけぎみに打ち込み, そ れにぶら下がって, 肩に掛けたプロテクションを物色していると, いきなりツラ ラごと崩れて charlet がスッポ抜け, わしも一緒に「うわっ」とか間抜けな叫 びを上げつつ, 右の mizo を掴む間もなく墜落した. 最後にアイスピトンを使ったのは, 7mくらい下だった.

後ろに剥がれるように墜落した. 走馬灯現象は起きなかった. 滝からは北アルプ スがよく見えた. 俺は墜落しながら, 北アルプスを見, それから下を見た. 途中 , 傾斜が緩くなってテラスになっているところがある. 「あーあ, とりあえずあそこにぶつかるよ」とおもいつつ左の背中で着地. バウ ンドしてさらに落ちる. 「どこまでいくんかのう. 地面まで行ったら嫌じゃのう」 と思ったところでロープのテンションが来て地面まで 3m くらいのところで止まっ た. 「おお, やっと止まったわい. 」と思う間もなく右肘と右ケツをぶつけた.

結局 15m前後の墜落だった.

木下がトップを交替したが, 上部ツララにたまげて敗退. タケシもトップで登っ たが, ロープがひっかかって敗退. ここで時間が無くなり, 下部だけトップロー プで登って撤収した.

帰りは暑かった. ミノド口のフロでしらべてみると, 右肘はかなり腫れていた. 左の背中も擦過傷のような跡があった. まあ, 大怪我にならずに済んで良かった. バスが遅れて出発したので, 17h31m の立川行きに乗るために駅で走らねばなら なかった.

肘があんまり痛いので, 24日は病院に行った. レントゲンを撮って検査した. 結果は骨に異常なし. 氷壁から落ちた患者というのは珍しいらしく, 医者にけっ こうウケた. 十数メートル落ちて, 骨が何ともないというので, 医者は印象づけ られた様子だ. ビレイシステムがちゃんと動作していれば, いくら落ちようが大 した怪我にはならないのだが, そんな事を説明しても判るわけないので, 「ははは. ちゃんとロープつけてますからね」とお茶をにごしといた. 骨に異常は無いが, 「1/7 の再診まで安静にしとけ」とのことである. 今も, 寝がえりすると痛くて目が覚める.

墜落の原因を考えてみた.

久しぶりにリードで落ちて, 危険に関する意識が甦った. 大きな怪我も無かったので, 良い経験だった. ルート自体は氷の質のせいで, かなり難しかったと思う. 5パーティーほど居た が, 23日に上部を登れたパーティーは無かった.