富士山日帰り


中山といのくまが台湾のニイタカヤマに登るという段取りで, その練習で富士山に行くのに俺もつき合った. ニイタカ山は富士山よりも100mか200mくらい高いらしいので, 多少の高度の影響は免れないから, その準備だ. ニイタカ山に登って何をするのかというと, 山頂で「トラ」と3回叫ぶ予定らしい.

富士山は 2年ぶりだ. 2年前の春にスキーかついで来たのが最後だ. 富士山のお楽しみで最高なのは, 多分スキーだろう. 富士山のスキーに比べたら, もう, ゲレンデなんかアホらしくてやってられませんぜ. パラグライダも楽しそうだが, 富士山の周りは気流が悪いのでその辺はどうなの だろうか.

単に歩いて登るだけのこの季節は, 実際には最低の部類なのだが, それにもかかわらずもっとも人が多いのはどういうわけなのだろう. 一番簡単に登れる季節だからなのかな.

富士山の特徴は, 登山者に占める

の割合が異常に高いところにある. 「特攻」とは, 美術部探検隊用語で, 知識も技術もないままに前後不覚で突進して来 る勘違い野郎のことである. すなわち, 事故を起こしたときに「無謀登山」 とかいって怒られるアレである. 「電波」はそのまま, つまり, 電波聞こえ状態の人のことである. 特攻が多いのは, 富士山が有名な山だからであり, 電波が多いのは, 富士山というのは日本有数の電波サイトだからであろう. 富士山の周辺には, それこそ無数にわけのわかんない宗教施設が点在しているの だ. 電波は電波を呼ぶ, とでも言おうか. かくいうわしら美術部探検隊も, その起源を辿れば特攻以外のなにものでもなかっ たわけであるが.

計画では, 新宿を朝一番のバスで出発し, 10時に登り始めて 5時頃下りて来るは ずだったのだが, 高速道路がかなり渋滞していて登り始めたのは 11時だった. 非常に天気が良くて, 風も弱く, 富士山としては最高の条件である. ただ, 天気が良いので暑かったが.

人が多いので, 中にはろくでもない奴も居る. ルートから外れて登る奴を口汚く罵る山小屋のオヤジと, つけっぱなしのラジオをザックにぶら下げてやかましいおっさんには, けっこうむかついた. ラジオ野郎には「ウルセエから消せ」と 何度か文句を言ったが, 消さないので, 「おまえ日本人?俺の言ってることわかる?」 と言ってやった. 3000m まではわりと全員調子が良かったが, 3200mくらいから中山がニュータイ プとして覚醒しはじめて難儀した. 「俺はいま, シャアが何考えてたか解るっすよ」とか 「人類の革新」とか言い出し, しまいには, あくびを連発して羽布団現象が出て, かなりヤバまっていた. 3400 前後からは寒くなり, 俺も脱いでた長ズボンをはいた.

吉田口から登ったので, 火口壁をぐるっと半分廻らないと最高地点には到達しな い. かなりの強風と低温でけっこう寒い. 持って来てたフリースを, ゴアテック スの中に着る. 最高地点に向けて, 火口壁を歩き始めた. 火口の眺めは, 一度みておいて損はない, ちょっと地球離れした景観だ. といって, 私は地球以外の景色は知らないのですが. あの風景は, 強いて言えば火星かな. 火口の底には僅かに雪が残っていた. 最高地点には, 例によって測候所があり, バクミンスター=フラーのドームが白く輝いている. 火口壁には火山弾が落ちている. 火山弾とは噴火で飛び散った溶岩が, 空気中で 丸くなって固まった奴のことで, タマネギみたいな割れ方をする, 丸い溶岩だ. 綺麗に丸くて手頃なのを 2個拾って来た.

測候所に着いたときはもう夕暮れで, これから下山すると相当遅くなりそうだ. まさかと思ったが, ヘッドランプを持って来て良かった. 中山を間に挟んで下り始める. 雲海に富士山の影が映って, とても綺麗だ. 御殿場方面へ向かって下りることにする. 途中, 火山灰が深く積もっているところがあり, そこを大股で下ると 足が火山灰にめりこみつつ滑べって行くので, 非常に快適かつ楽しく, しかも素 早く下りることが出来て良かった. 砂走りとか, 須走りとか言うらしい. 下山したら, 結局午後9時半だった. そこでタクシー呼んで御殿場に行き, 電車で帰る予定だったのだが, この期に及んで山小屋が既に閉まっててタクシー呼ぶのに電話もで きない, 大ピンチであることが発覚!

ヒッチハイクを含めて幾つか選択肢があったが, 結局, 小屋の番人のおばさんを叩き起こしてタクシーを呼んでもらい, 22時20分の終電に 3分差で間に合って何とか帰れた. あれが間に合わなかったらどうなっていたことやら.

かなり日焼けした.