大同心大滝 → 小同心クラック


また八ヶ岳いってきた。 わしは冬山というと八ヶ岳である。 理由はお手軽だからだ。 クルマを使えば日帰りすら可能である。 そんな冬山があるだろうか? いや、ない。 甲斐コマですら、単に登頂して戻って来るだけで 1拍二日はかかる。

八ヶ岳は、狭い範囲にピーク、尾根ルート、沢ルート、垂直の氷等が揃っており、 どれも3ピッチかそこらの規模。 しかもピッチグレードも楽勝なので、 昼前に出れば夕方には帰って来られるルートばかり。 そんなわけで、冬山テーマパーク的位置付けのエリア。 ストック持ってやってくる夏山に飽きた中高年登山者の団体なども居たりして、 本格派のアルパインクライマーからすれば、 「ケッ」 ってな感じのエリアなのである。

しかしながら、そんな楽勝とされるエリアでもプランによってはかなり 腹いっぱいになるのだ。

今回行ったのは、大同心大滝から小同心クラックという複合プラン。 どちらもロケーションが横岳西壁のドまんなかにあり、 これら二つをつなぐと横岳西壁をほぼ直登するラインになる。 氷と岩という全然異なる要素を持つ二つのルートをいっぺんにこなし、 (つまり、それぞれ必要な道具も異なる) しかも、ゴールは横岳山頂。 それぞれ単品でも中級者ならそこそこ満足できるものなのだが、 これを二つまとめてやったらけっこう楽しめるんじゃないのかね、ってことで。

同行はまたしても JECC の吉川さん。 去年の末になんとなく行こうかな、と考えてたこのプランを、 前回の甲斐コマんときに話したところ、今回、やることになった次第である。

土曜日は夕方から荒れるというはなしだったので、 さっさと登ってさっさと降りよう、ということで朝早く出発するつもりだったが、 出発は 7時まわってた。 紘泉にテントはって、大同心沢を詰める。若干ラッセルぎみ。 大滝を11時くらいに登り始める。俺がリード。 大同心の大滝なんて、もう何度も登ってるから ここはさっさと終らせて、って感じで荷物しょったまま登り始める。 一瞬、荷物は置いてってあとで荷揚げした方がいいかな、 とも思ったんだが、スピード優先ってのがあったのと、 こんな滝、楽勝だぜ、というのがあって、ついしょったまま登っちまった。

荷物がそんなに重くてしんどいとは思わなかったが、 結局荷物が効いたんだろうな。 二度目にフォローで登った時、荷物二つ持ってたら、 一本目のピンにたどりつくまえに力尽きて落ちたくらいだからな。 途中、ツララ状の難しいところで攻めあぐね、そこをなんとか突破したが、 結局、てっぺんに抜けるところで足が滑べって墜落! 手は両方ともバッチリ効いてたから、多少足が滑べっても大丈夫ダロ、 と思ったんだけど、 何故かあっさり落ちた。

核心のツララ状を突破したところで 「あとは勢いで一気に行くしかない」と思い、 抜け口まで一気に行ったら手が終ってしまい、 抜け口の微妙なところで焦りが出て、冷静な動作ができなかった。

あお向けに墜落。 「うっわー!久々にやっちまった!」 25m の垂直の壁の一番てっぺんから後向きにバンジージャンプである。 墜落の衝撃は、まずティムポに来た! ハーネスが衝撃荷重で引っ張られた時に、レッグループにサオがはさまった! ビレイしてた吉川さんは横向きにふっとばされ、セルフビレイが伸びきったところで 俺も停止。 10m ちょっと落ちたかな。 2本めのピンのちょい下まで落ちた。

ロープ掴んでまともに向き直り、ピッケル打ち込んでそれに おやすみフックでブラさがる。 しばらく上を見てた。 無論、登り直すとすれば、核心部の下からやりなおしだ。 しかも、荷物しょってたので、頭が下の宙吊になり、 しかも、ティムポはさまれて痛ってぇのなんの。 これで登り返すヤル気が残ってたら、 俺は今ごろこんなところで落書書いてないだろ。 とっくにどっか外国の山で死んでるだろ。

吉川さんとリード交替。 荷物は俺がまとめてしょっていくことにする。 吉川さんが抜け口の微妙なところをうまくこなして上まで抜けた。 抜け口の上には俺が打ったアックスの跡も残ってるはず、 さっき俺がブっとんだのを見てるだけに、ちょっとヤな感じだったかもしれない。 さて、俺の番だ。 さっき限界まで追い込んで落ちたんで、 もう登る力は残ってないだろ、とおもったし、戦闘意欲もかなり消滅していたが、 そういう泣きごとはとにかく登ってみてからにしよう、と思い 荷物をひとつにまとめて背負い、 登り始める。

うっひー! こんなにキツかったけか? つぅか、こんなに俺って腕力無くなってたっけ? 一歩登るのがマジでしんどい。 しいどすぎる。 一本目のピンにたどり着く前に、力尽きていきなり墜落。 いやいや、こりゃダメでしょう。絶対ムリ。 今日は終ったね。

と思ったが、ものはためしだ。 このままだと俺も荷物も上がらないが、 あとから荷揚げすることにして、俺だけでも登ってみようじゃないか。 ってことで、アックスからブラさがって自分のダブルロープのうち一本を外して それを荷物につなぎ、シングルロープにてフォローする。 諦めるにしても、力尽きて墜落してからでも遅くないだろ。

なんでもやってみるもんですな。 力が無くなると、かえって動作が洗練される。 俺と吉川さんが登った跡があり、それにアックスをひっかければいいので、 腕力もそれほど必要ない。 そして、吉川さんがガンガンひっぱってくれたので、なんと、最後まで登り切ってしまいましたよ! いやいや、やってみるもんです。

俺は、これでもう帰ろうと思ったんですよ。 腕とか全部おわっちゃったし、 アルパインで、しかもリードで限界まで頑張って力尽きて落ちた(アホか…) ってのは初めてだし、 ティムポは痛いし。 でも、大滝から上を見ると、目標の岩場がすぐそこに見えるんですよ。 吉川さんは、「どうせヘッデンだし」とか言ってるし、 なんとか天気ももちそうなんで、 俺も気を取り直して最後までやることにした。

大滝から上は、正味ラッセルだ。 しかし、俺は疲れきってヘトヘトで、全然交替できない。 結局、ほとんど全部吉川さんがラッセルしたが、俺はフォローのくせに遅れギミ。

小同心のクラックルートは、クラックというよりチムニーだ。 1ピッチめ吉川さんのリード35m。 これが一番難しかったピッチだった。 2ピッチめ。俺が 20m弱。4級弱くらい?のチムニーのピッチ。 ステミングでガバを拾いながら。 3ピッチめ、やや傾斜のつよいチムニーを吉川さん。20mくらい。 4ピッチめ、カンテ状をてっぺんまで俺。 全然問題ないピッチ。 ここで夜景に。ついに日が暮れた。 ついロープを片付けたが、横岳山頂直下で夜中になってしまい、 吹雪いて来たので、またロープを出す事に。 そして、ついに山頂!

吹雪きでなーんもみえましぇん。 さっさと降りるべ。 大同心沢を大同心の基部まで降り、そこから大同心尾根を下降して、 テントに戻ったのは19h30m くらいだったかな。 大同心の基部までは、夜中と雪もあって、若干ルートファインディングに苦労したが、 技術的に難しいところは皆無。 12時間行動のわりにはしんどかった。いや、マジで。 八ヶ岳でこれだけ腹いっぱいになるとわ。

翌日もどこか登るつもりでいたが、 マジもう腕もやる気も終っており、 8時に起きて10時すぎに下山してきた。