三度めの小笠原

またしても小笠原いってきた。 1988年3月の皆既日食、 1999年8月に続いて、 これで3回めだ。

よほど気に入ったものとみえる。

8/4

荷物を事前に送ろうとしたが、時期を逃したようで、 結局妻が段ボールをもってタクシーに乗り、俺がチャリで移動することに。

芝浦に着いたのは、けっこうギリギリ。2等奴隷船室は、受け付け順なので、 こりゃフナゾコ奴隷確定である。なんか台風とか来てるみたいだし、 難儀よのう。

自転車をテキトーにばらして袋に突っ込む。 小笠原は小さな島ではあるが、あるいてくまなくうろつけるほど小さくはない。 一応、村のバスはあるのだが、30分に一本であり、走ってるところも限定される。 そんなわけで、自転車が移動に便利であろうと判断したのだ。

船が出発し、会社のあるあたりが見える。 「そろそろ圏外じゃけんね」と会社の人々に電話。 もう電話にも出れんけんね、仕事もせんけんね、と けんね状態に突入宣言じゃけんね。

予定どおり午前10時発であった。

そこそこうねりがあったりしつつ、船はゆくゆく南の島へ。 次に陸(オカと読め)にあがるのは25時間後である。 昼飯に船の食堂でラーメンくったら眠くなり、気絶。 起きたら妻は船酔いでぐるぐる状態であった。 俺も若干ぐるぐる来てたが、腹も減ってたので食堂で食事。 うねりがけっこうあり、食事の盆を持って移動するのも若干コツが必要な状態。 トイレ前で討ち死にしている子供が散見される。 夜中は曇っていて星も見えず。 休暇取得のため無茶なスケジュールだったりしたので、 俺も疲れがたまっており、再び気絶。

8/5

6時にデンキがついて起床。

妻はあいかわらず船酔いがひどく、 顔面蒼白ゾムビ状態。 朝メシも食いたくないというので、 俺だけ食堂へ。 パンなどを買って来てやる。

鳥が見え、トビウオがとぶようになった。 ついに来たか。陸が近いぞ。 強い風が船にあたって部分的に上昇気流になっているのを使って、 カツオドリが滑空してゆく。手が届きそうだ。 昼頃、婿島列島がみえてくる。遂に再び来たぜ! うねりも多少マシになり、妻も表に出て来てトビウオみたら元気になった。

ダイビング関係の船が出迎えに現れつつ、二見港に入港。 船に預けた荷物を受け取り、自転車を組み立てて宿に向かう。 宿は港から50mくらいの場所にあった。

さて、小笠原諸島というのは一応日本領土であり、 日本語も通じるのだが、 あらゆる基盤的部分を疑ってかからねばならないところは外国と同じである。

すなわち、ケータイ電話は通じるのだが、 通じるのはNTTだけである。 NTT は通じるが、なぜか imode はできない。 当然、ケータイのメールも不可である。 音声通信ではミョーな遅延がはいる。 なぜかというと、衛星回線だからであり、 デムパといえども速度は有限だからである。 それから、パソコン系の情報通信手段(いわゆるインターネットとかいうやつ) はあるが、昔懐かしい ISDN である。 もしくは必殺のアナログモデムである。 電話は必殺の衛星通信回線であるせいか何か知らんが、 アナログモデムであってもなかなか思うように通信できない。

さて、宿に着いて荷物を解いて、 念のため会社に電話する。

俺:「何かあった?」
同僚:「バグ出ました。出荷止まってます」
横にいた販社の社長:「わら」
  

つまるところ、このバグはバグではなく 製品の核心部分の実装がヘボかったせいであった。 しかし、それを突き止めるのに3日かかった。 そして、その部分のコードをまるごと全部、徹夜で書き直した。 全然休暇になってないすぎ。

こういうのを、ある東洋の島国では「自業自得」というそうだ。

宿は綺麗な民宿で、食事が非常においしい。

また、本棚に「ナショナル ジオグラフィク」の日本版と、 いろんな海洋生物のビデオが並んでおり、部屋のビデオデッキで見れたりして、 非常に良いところです。

8/6

つまり仕事してました

8/7

とにかくここじゃできることは限られている。 仕事しようにもネタが揃わないので遊ぶ事にする。 この日は朝から自転車であちこちうろつき、 電波天文台の VLBI 観測施設などを見学。 宿のある街(といっても島に街っぽいものは一つしかない)から峠越えて裏にある、 良い感じの浜に行って泳いだ。

この浜は、ちょいと沖にでたところが急激に深くなっており、 水の透明度も非常に高く、 魚もいろんな種類のがわんさか居り、 非常に楽しいところであった。 深いところに行くと、空を飛んでいる感じだ。 底が遠くに見え、墜落しそうな不安に駆られる。 水深は 20m くらいかな。 底ではデカいナマコがのたくっていた。

沖の方はけっこう波があるうえに、水も冷たかった。

今回もバーナと鍋、ペッタンコ水筒とスパゲティその他食材を持って来たので、 昼食はこれで食べる。

夕方は旧気象レーダサイトの見晴らし台に登って夕日をみる。 いまいち曇っていてダメでした。

街に農協の直売所があり、そこでメロン買って来て食った。 うまかった。

8/8

ストレス発散というかなんというか、 この日はむちゃくちゃな強行軍で、あちこち遊びに行った。

朝から島の尾根部を通ってる道をチャリでぶっとばしてみる。 こりゃなかなか良い眺めだ。

父島の一番高い山は 300m かそこらだが、 島はけっこう小さいので、道路もわりかし急だ。 それに、海岸から正味300m登るので、小さい山のわりには眺めの変化もあり、 スケールもそこそこあって面白い。 靴は普通の運動靴なので、急な登りは若干つらい。 それに、俺の自転車は 7段変速の ローが 39x21 という漢仕様だ。

父島の道路は、島を一周しているものというのはない。 島の西面は比較的地形がなだらかで、湾も多く、海岸沿いに道路があって バスが走っている。 しかし、東面はずっと切り立った崖で、岩も火山で脆く、舗装された道路は一切無い。 ちなみに南1/3は国土地理院1/25000図でいうところの点線道路すらなく、 全くのジャングルクルーズ、人跡未踏だ。

島の尾根ぞいには、こういう特殊な場所を活用しての電波関係施設が 並んでいる。 すなわち、本土から 1000キロ離れているので、 電波の中継地として、 あるいは電波天文学の前線基地として、非常に利用価値が高いのだ。 標高300mくらいの中央山というのに登ってみた。 てっぺんに高射砲陣地みたいのがあった。

帰宅して仕事。

さっさと終らせ、今日はトレッキングと海だ。

まず、チャリで海岸をぶっとばして小港に。 潜り荷物かついでの島の峠は、さすがに妻にはしんどそうだ。 潜り荷物担いでロードレーサで島の峠を登れる妻というのも、 よくかんがえてみると、こりゃすげぇです。

海岸に着いた。ここらへんはたくさんの山羊が居るところだ。 ここには島唯一の水が流れている川があり、上流にはダムもある。

さて、チャリ置いてザック担いで峠越えだ。

こえたところはブタ海岸である。なんでこういう名前なのであろうか。 ウケを狙っているのか。 どうせなら「父島」ではなく「残され島」にしたらどうか。

このブタ海岸というのは非常にいろんな生物が居るところで、 前回は鮫も居た。今日も居るだろうか。 今日は一日、ここでゴロゴロする予定なので、 ここに荷物を置いてさらなる奥地、ジョンビーチに出発だ!

いやしかしこんな遠かったっけね。島の南端に向かって 海岸沿いを延々と歩く。ジャングルの道。 ただし、道はよく整備されていて歩きやすく、時折尾根では視界が開けて眺めもある。 天気がよくて、母島がみえた。

なんとなくカラ身で来ちゃったので、途中で水がなくなり 腹もへって、難儀した。

いやー、着きました。ジョンビーチ。 ここは、砂が全部石灰岩で浜が白いのがウリだ。 海も底が白いので綺麗な水色である。 ただ、岸の近所にはあまり魚は居ない。 魚でいえば、ブタ海岸のほうがずっと多いのだ。 前回は、ここでシャコ貝の密漁に及んだのであった。

マジでしんどいのでさっさと荷物置いたところまで戻ることにする。 往復2時間。

戻ったら昼だった。朝からこんだけ遊び回ってまだ昼!

スパゲティを茹でるときは、真水に海水を若干混ぜて、良い具合の塩加減を作った。 こりゃいいぞ。 俺等が昼飯食ってたら、船がやって来た。 乗ってる人々が、荷物を頭の上にかかえたまま泳いで上陸して来る。 どっかの宿のガイドツァーであろうか? それにしちゃ浜で測量などしていて様子がおかしいが。

メシくったら泳ぐぜ!ヒレ人間として泳ぐ側にまわらせてもらいます。

ここはデカい珊瑚礁がよく発達しており、ものすごい数、種類の魚が居る。 水深は浅い。また、岸の近くの透明度は良くない。これも相変わらずだ。 散々あちこちおよぎまわった。今回も鮫が居た。 鮫も慣れるとどうってことないね。 2mくらいだったし、大人しかった。 しかしあれは美しいな。泳ぐ姿も非常に優雅だ。

とはいえ、自分を食っちゃう可能性のある動物と、 野性の状態で直面するというのは、 やっぱり緊張するものですな。

上陸して、さすがにしんどいのでキゼツ。 妻は、船でやってきた人々とあちこちうろついていたようだが、 俺がキゼツしてるところに叩き起こしにやってきた。

彼等は、都の海洋センタのスタッフであり、 海亀の研究ならびに保護活動を実践しているところなのだった。 すなわち、産卵した場所を記録しておき、フカの具合をチェックするのである。 卵は地中1mくらいのところに産むので、そこから脱出するのは並大抵ではない。 行き遅れた奴が居るので、これを救出したりもするらしい。 俺も救出された子亀を放流した。

ふかしたあとの産卵所も見た。

小笠原というのは島じゅう海亀が卵をうみにくるところらしい。 そこらじゅうで産卵しているそうだ。 のちに、わしらもその事実を自分の目で確かめることになるのだが。

夕食は島の名物「四角マメ」が出た。 四角マメとはこういうマメである。shikaku mame

通常のマメのサヤの上下に、マメの縦方向(ってゆうのか?)に、 二つずつびらびらがついておる。 そのおかげで、マメがおさまっている領域の断面が四角いのである。 四角いのはあくまでもマメがおさまっている領域の断面であり、 マメ自体は丸いので誤解なきよう。

夕食後、海洋センタで海亀に関するナイトレクチャーを受講する。 小笠原の海亀は普段、本州南岸の黒潮あたりを生息海域としているのである。 そして、夏になるとここに繁殖のために移動してくるのだ。 移動には約2週間かかるとされている。

海洋センタには産卵のための浜があり、囲いこまれている親亀が 時折上陸して産卵するそうだ。なんと、今日も上陸しているという。

レクチャを中断して、産卵が始まったのを見に行く。 直径30cmくらいの穴に、ちょうどピンポン玉くらいのサイズの卵を 産む。卵は、別の水をかぶったりほじくりかえしたりする奴が居ない場所にスタッフが移動し、 そこでフカさせるのだそうだ。

一旦産卵が始まると度胸がすわったもので、人がいっぱい来ても平然と産み続けておる。

一日あそびまわってヘトヘトだ。

8/9

昨日はあんまり強行軍だったので、今日はちょっとゆっくりすることにした。 みんなの海岸、小港でゴロゴロ。

ここは人気の浜だが、どうしてなかなかいろんな魚も居て、 また浜の規模も大きく、楽しいところだ。ちょいと沖には大きな珊瑚礁もある。 底は綺麗な石灰岩(珊瑚の破片)だが、 それに擬態するエイが居た。

今回の旅行にはラジオを持って来てある。 例のICF-SW100だ。

小笠原は行政区分上は日本であり、あまつさえ東京都ですらあるが、 実質上はどこの国でもないという側面は強い。

たとえば、テレビ。当然だが衛星放送しか入らない。 もちろん、ラジオは一切、何にも入りません。 唯一の例外は短波だ。

NHK の国際放送が役に立った。ちゃんと日本の天気予報もやるんだ。 ちゃんと小笠原の天気も言ってた。 つまり、小笠原でラジオで天気予報聞こうと思ったら、 短波で NHK国際放送を拾うしかないのだ。

短波は非常に受信状態がよかった。まるで普通に国内で聞く 中波のようによく聞こえた。全く雑音が無いせいであろう。 電波自体はそんなに強くなくて、延長外部アンテナがないとよく聞こえなかったからね。

でも、実際には街の水産センタの入口に天気図が張り出されるんで、 天気予報なんてそれ見りゃいいんだけどね。

小笠原の天気は晴れ時々曇りところによりにわか雨であった。 そんな天気あるかいな、と思ってたが、ここは本当にそういう天気になる。 だいたい晴れてるのだが、ちょっと濃い目の雲がやってくると、 簡単に雨が降る。白いんじゃなくて、灰色のが来たら、確実に降ると考えて良い。 しかもけっこうな勢いで降る。 降り方もおかしい。 50m向こうでは全く降ってないのに、俺等のトコだけザーザー降ってたりする。 雨は5分ほどでやむ。 このへん、本土の常識は全く通用しませんな。

例によって昼飯食ったら浜でキゼツ。

島には唯一の猛禽類「オガサワラノスリ」が居る。 なんかトンビみたいだけど妙にガッシリしてて、尾が凹んでないな、 とおもってたらオガサワラノスリなのだった。 この日もそれが、わしらが居る浜の上空をずっとうろうろしていた。 帰りは道端のガードレールにとまってるのをみかけた。 猛禽のくせに人間に対する警戒はあまり強くなく、 けっこう近くで観察できた。

夕食後、昨日のレクチャの話を思い出して、まさかいきなり居るわけないよな、 と思いつつ宿の前の浜に散歩にでかける。 海亀が卵産みにやってきてないかな、というわけだ。

浜を向こうまで歩いてみた。居ません。 そう都合よく居るわけないか、 と話しつつ戻って来ると、妻がザシ、ジャリという音を聞きつけた。 双眼鏡を向けると、うひー。なんと、本当に上陸して来てます。 すぐ隣は小笠原丸が停泊する港だし、 浜は盆踊りの会場となる公園の一部なんだけどね。 そんなのお構いなしですな。

登って来た亀は、1m以上のデカいやつ。 まず、自分が隠れる(つもりの)穴を軽く掘ってから、 卵を産む穴を掘る。 これがえらい勢いで後ろに砂を飛ばすんですよ。 その頃には、もう、観客が15人くらい居ましたね。

卵を産む段になったらなぜか海洋センタの人が来ており、 素早く卵を回収。 子亀がふかするのは夜中で、 ふかしたら明るい方に移動するのだ。 通常、原始の状態では陸より海の方が明るいのでそれで構わない。 だが、この浜はすぐ隣が公園で街灯も明るいので、 ここでふかしても正しい方角に移動できないのだ。 そこで、センタの人がこの浜で行われた産卵に関しては、 卵を回収してセンタのふか場で世話をしているのだ。

卵を産み終った亀は、念入りに穴を埋めている。 21時に上陸してきたのだが、穴を掘り終るまで1時間、 産むのに30分、 埋めるのは全部見てられませんでした。 23時まで見てたんだけどね。眠くなって退散。

ASA400のフィルムを持って行ったのだが、 肝心の三脚が無かったので、写真は全く撮れてませんでした。

8/10

こんどは島の尾根を逆向きに自転車で走ってみた。

もう、暑いので自転車乗るときは上半身裸だ。 ドジーン!状態だ。土人サイクリストである。 またしても中央山に登り、あちこち写真とる。

いやしかしこりゃ毎日天気良いね。最高ですね。 暑いとはいえ、そんな暑くないわけだよ。 日差しは強烈だが、 周りは海なので、水は陸地と違ってそんな簡単に温度は上がらないからね。

前回はカメラもってくるの忘れちゃったが、今回はきっちり持って来たので、 いろいろ写真とりつつ登る。 しばしば道端に標識あり。

山羊の画は標識によっていろいろと異なっており、 その他にも絵柄としては山羊以外に何だか良く判らないものが 描いてあるのもあって、けっこうバリエーションが豊富である。 なんとなく、人が手で描いてる疑惑もあり。

電波天文台も見学する。敷地に入ってぼーっと見上げていると、 職員がアンテナを動かしてくれた。 このアンテナの天文学的意義について伺う。 目標天体の近所の恒星を同時に観測することで、 地球大気に起因するゆらぎの影響をキャンセルするためのデータを得、 これによって飛躍的に VLBI (超長基線干渉計) の精度を向上させる、 という計画である。 VERA プロジェクトという。

現在、開発中であり、まだあんまうまくいってないという。頑張れ!

戻って来て、昨日の浜を観察。 卵産んだ海亀は、けっこう念入りに穴を埋めていったものだ。 あんまり判らないかも。 でも、そこまで来る足跡というか、その、やつが通った跡というのは、 体重200kgちかくあるわけで、隠しようも無い。 こりゃ知ってりゃ誰でも見付けられるよ。

その近所のベンチで昼食はまたしてもスパゲティ。 海水はどうせ綺麗なので、ふたたび麺を茹でる塩加減に使う。 ウマー。

午後は、魚メインで泳ぐ場所を探すことにする。 どうも島の北の瀬が、様々な水中生物が豊富らしい。 とりあえず「釣浜」というのに行ってみることにした。

うひー。どえらい波でとても泳げません。さすが小笠原。浜でもこの波だよ。 ワイルドよのう。

隣の宮の浜に再び移動。こっちも前回よりはだいぶ波がある。

デカい魚もだが、小さいのがワンサカ群れになってるのも これは見てて面白いものだ。 この浜はちょいと沖に出るとそのへんが非常に豊かで面白いし、 種類も数もかなりのものです。

宮のに浜も海亀が産卵に上陸したあとがたくさんあった。

この日の夕方は宿の車で三日月山に夕日をみにいく。 またしても見えず。 西の方には台風もあるというが、そのおかげで夕日はダメだったが、 眺めはけっこう良かったよ。

夕食後、またしても浜に観察に行くが、今日は上陸を見付けられなかった。

8/11

今日は船に乗って帰る日だ。

海亀の産卵も見れたし、鮫も居たし、あちこち遊び回ってけっこう面白かった。 次は、シーカヤックとジャングル探検もやろう。 最終的には、自分でヨット乗ってこの島に来ようと思う。

島を出てしばらくしたところで、右舷後方になにかのセビレが見えた。 どうも鯨だったらしい。見たのは一瞬で、よく確認できなかったのだが。

船から夕日がよく見えた。