八ヶ岳南沢アイスクライミング(2006/01/07)

うかつにも忘れていたのだが、3連休だった。

そこに、去年末南アルプスに一緒に行った小川氏から連絡があり、 ヤツあたりに氷イカネ?とのこと。 八ヶ岳も久しぶりだ。 同行は今年6月マッキンリーに行く予定という、 やはり jecc のオカムラ氏。

前日小淵沢駅で駅ねり。 明るくてやかましくてあまりよく寝られず。起きたらしんどすぎ。 小淵沢のコンビニで買いだししてると夜があけてきた。 かなり寒い。 報道によると最強の寒波が来てるという。 八ヶ岳も甲斐駒も2000mから上くらいがすっぽり雲の中だ。 つまりその雲の中は帽子やマユ毛に樹氷がそだっていく ビュービューの吹雪ってわけです。 まぁ俺ら半分下界みたいなとこで、氷登って遊んでるだけだから、 関係ないけどね。多分。

ミノドの駐車場で着替えて荷物詰め直して歩き始める。 先行のクライマー3人を抜かしたら、なんとその一人が岩橋くんだった! へんなルートん中で会った奴が知合いというのはよくあることだが、 こんなアプローチで会うとはな。 石尊稜を登る予定とのこと。うひー寒そう。 わしら南沢じゃけんの、といいつつ別れる。

うー南沢の滝ってこんな遠かったけね。あーしんど。 テントサイトではウソの声がきこえた。

テントはって、荷物整理して、 小滝をみにいくと、面白そうなでかいツララがさがっていた。 下まで届いてないところがイカスのであり、 アイスクライマーのロマンをかきたてるのである。 つまり、アイスクライマーの究極の欲望は 美しくうつろいやすい氷と同化するところにあるのだ。 絶対、こいつ登ってやるぜ。

ロープは2本あったので、まず小川さんがリードして比較的すなおなラインに 一本トップロープ設置。それから私が回収しながらフォローで登り、右の 氷柱エリアにもう一本設置。これで遊園地の完成である。 今日は一日、ここで遊べそうだな。

パワーが残っているうちに、届いてないツララに挑戦。

ツララ登りの極意は、壊さない事に尽きる。 下まで届いてないので、ツララには張力がかっているわけだが、 そこに手や足を打ち込んだら、簡単に揃断破壊してしまうのだ。 だから、打ち込みも蹴り込みも、最小限の回数と深さで登らねばならない。 特に足はつららの先端部を蹴ることになるので、 非常に崩壊の危険が高い。

これを避けて壊さずに登るためには、一回きまった足場はそのままずっと 使い続けるしかない。右足だけなんとかツララ先端にひっかけ、左足を左に 振り出して右手を上にもっていきヒッカケ気味に2cmほど刺す。 次によくある手口は、右足はそのままで左足を右足の前を通して右に振り出し、 左手を上にもっていくというやつ。 なんとか他のツララと合流して頑丈になるところまで早くたどり着きたいが。

こんなときモノポイントのクランポンは有利だが、俺のは昔ながらの2枚出歯。 どうしてもヒネってるとはずれがち。何度か両足宙ブラリんになりつつ、 また、懸垂で何手ごまかしつつ、じわじわとつららをよじのぼって上までたどりついた。 この氷柱は久々に面白かった。

ワシはこの日はこれ一本で全ての力を使い果たし、終了してしまった。

キャンプで使う水を作るための氷として 破壊したツララを集めてテントに運ぶ。 それから、大滝を若干偵察などする。 例年どおり大きいが、例年どおり傾斜はたいしたことないね。 16時からエンドレス宴会モード突入かと思われたが、 全員18時頃には眠くなってしまい、 俺など寝袋にも入らず氷点下のテントでキゼツしてるありさま。 そのままよい子として全員就寝。 その日はかなり寒かったようだが、俺はべつにどうってことなくて、 ひどい筋肉痛以外は寒さも感じず朝までぐっすり寝た。 その日はミノドでも-18度だったそうで、-20度より下がったかも。 いくらバーナーたいても全然テントが暖かくならず、上着を脱げなかった。 小川さんと岡村さんは寝てる時もけっこう寒かったそうだ。 私は殿様シュラフのおかげで夜中は熟睡だった。テントも3人のまんなかだったし。

2日め

7時まえ、ジョウビタキの声で起きた。いやー、よう寝たわ。

朝はソース焼きそば。うまかった。 今日は大滝をやる予定だが。

右手北辰を研ぎ直し、 ついでに岡村氏のアナコンダも研ぎ直したりして、 のんびり準備などして、昨日むちゃくちゃに凍り付いた俺のロープを持って、 大滝へ。 岡村さんにリードするかどうか訊いてみたが、 私に譲るというので、まんなかの、一番楽勝っぽくて、かつ、登攀距離のありそうなラインを 私がリード。 ピンは余裕みて7本。 ビレイは小川さん。 傾斜は例年どおり垂直にやや足りないくらいという微妙なところ。 スケールにややビビってしまい、傾斜が急になったところで一本、 途中で一本と、へなちょこ式に余計にピンを打ってしまった。

それにしても誰も来ないね。俺らでこの巨大な氷瀑が貸しきり状態ですな。 リュータで研ぎ直したアイスピトンは快調に硬い氷にくいこみ、 調子はまずまずです。

かなり寒く、またリードは普通より余計に緊張するので、 左手はずいぶん冷たくなってしまった。 中間支点の工作は、左手のヒジでリストループにぶらさがってやる事が多いのだが、 またこれで強烈に手が冷えた。 更に、手袋のインナーがまくれあがってリストループのところで わだかまってしまい、手首が更に締めつけられて全然回復しない。 マズイ。

マズイけど、もう残りほとんどないから、このまま行っちゃえ、 ってことで、垂直部を抜けて微妙に右にトラバースしつつ完登。 すると猛烈にロープの引きが重くなった。 昨日むちゃくちゃに凍り付いてたところが、 きっといまビレイ器を通過中なのだろう。 全力でロープをひっぱって終了点の木まで歩く。 さて、このあたりで血流が回復してきて、今度は左手の激痛にうずくまる。 こりゃ何なんでしょうかね。 冷えてぶつけると普通にぶつけるより余計に痛いもんですが、 それですかね。 我慢できない痛さなんて存在しないと思ってる私ですが、 これは我慢できませんな。

痛みがおさまってから、ダブルロープを結び、終了点の工作をやって、懸垂下降。 そこにようやく次のパーティーが登場。 おじさん1、じいさん1、女1の3人パーティー。じいさんがやけに偉そうで、 このパーティーどうよ?って感じ。左端の一番簡単なラインを登ってた。

そうこうするうちに、いくつか他のパーティーもやってきた。 やってきたのが4人づれ。 こいつらがかなり意味不明で、 右から登ろうか左から行こうかと右往左往したあげく、 何もせずに帰って行った。 あれは いわゆるひとつの「アプローチ敗退」ってやつですかね。 そういうものがあると、話には聞いていたが、実際に見たのは初めてだ。 全く余計なお世話ですが、横から見てて、アレはかなりなさけないものですね。

私は、正面の氷柱状のもっとも傾斜のきついラインを登ってみた。 昨日の小滝のつららに比べれば、技術的内容は乏しいが、スケールが大きいので それなりにやりがいはある。 ところで、それを登ってて、 自分の出した落氷が顔面直撃、すげぇ量の鼻血が止まらなくなってしまった。 あとになって調べたら、それは鼻血ではなく氷で顔面が切れたものだった。 なんでもいいが、とにかく登ってて血がドクドクドクと際限無く出て来るのには難儀した。 出て来た血は氷に落ちて一瞬で凍り付く。 まさに血も凍る惨劇ってやつだ。 あとから来る人はさぞぎょっとすることでしょう。 瞬間的に冷凍されるためか、 きれいな朱色のままなのが面白い。 その時は鼻が折れたかと思ったが、 下りてコンパスの鏡でチェックしたら折れてなかった。よかった。

次に来たのは若者とオジさんの二人パーティー。これは一見して登れそうなペアで、 俺らのラインのすぐ左をオジさんがリードしていた。 小川さんによると、そのオジさんは昔 JECC に居たこともあるという。 比較的、しっかり打ち込んで登るタイプで、必然的に氷を落す量も多い。

岡村さんが登るというときに、リードが落した人の頭くらいのサイズの氷が彼の頭を直撃した。 意識を失うというほどではなかったが、 かなりの脳シントウがあり、すぐ立てない状態だ。 氷がとんでこない安全なところに移動し、様子を見るが、 なんにせよ、ヘルメットかぶっててよかった。 ノーヘルだったらどうなっていたか判らない。 これ以上の登攀行動も難しそうな情勢なので、 彼には先にテントに下りてもらい、ロープ類は回収して帰還する。

テントをたたんで荷物をまとめて下山するわけだが、 それにしてもこの荷物の量は、すげぇな。 岡村さん荷物多すぎ。関係ないテントのポールとか持って来てるし、 今回食わなかった食糧とかあるし。 俺のザックにも分散し、ロープ、余った食糧、 マット、ポールを積載する。やりすぎて自分のアイゼンが入り切らなくなり、 これは小川さんに持ってもらった。小川さんすみません。

自力で持ち上がる限界ギリギリの重量で、30kg以上あったと思う。 JECCのクライミングパーティー以来ですな。 久々にクソ重いのを背負って、 下山中に股関節おかしくなりそうだった。 小淵沢から中央道で直帰。

フロ入って顔を洗ってよくみたら、 鼻の右側面が切れていた。