尾白川再び(2006/01/22)


吉川さんと氷を登りに行った。 前夜発の日帰りで。場所はいつもの尾白川。

竹宇でテントで寝て、起きたら8時だった。 着いた時はけっこう車があって テントもはってあったのに、もう誰もいねぇ! いきなり出遅れてしまったわしらだが、 今回も全面的に脱力モードなので気にしない。 林道終点にはすごい数の車がとまっていて、大盛況です。 先がおもいやられますな。ははは。 以前、吉川さんがγルンゼというのに行ったところ、途中で氷がつながってなくて 登れなかったそうで、それの続きでもやろうぜ、ということに。

このエリアのメインは錦滝という傾斜のつよい40mくらいの氷瀑で、講習会だかなんかで えらい数の人が居る。俺らはそこから2本奥の沢γルンゼへ。

γルンゼ、あしあとが一つあるきりで、誰も居ません。最初の滝は10mくらいかな。 傾斜はほどほど。 のぼったところの木で確保。 次(f2)も10mくらいかな。 以前、吉川さんが来た時はこの滝がつながってなくて、 ここで登るのを諦めたそうだ。 こちらは細くて氷も薄く、微妙な登りで、ついでに確保支点もよくない。 これを抜けるころ、後続3人パーティーが来た。

ここから先は吉川さんも、そして当然私も知らない未知の領域であります。 探検気分です。

その先は沢に詰まった流木を木登りして、ナメ状の氷(f3)を歩き、 「もののけ姫」に出て来たような巨大な岩屋に。 ここでおしまいかな、と思ったが、よく奥を見てみると妙に明るい。 どうも開通しているようだ。 洞窟をずんずん詰めていくと向こうに出た。 ここでひと休み。

この奥にもそこそこの傾斜の細い氷が2本見える。 ちょっと傾斜があるのでどうかな?と思い、 吉川さんに「ロープ出しますか?」と訊いたら 「要らないんじゃない?」との返事。 確保無しではたった一つの落氷が致命的な事故につながりかねないので、 そのまま落氷出さないようにf4を慎重に越える。 抜け口はピックが効かないグズグズの雪氷で、左手のブレード北辰を 右手に持ち替えてブレードを雪に打ち込んでクリア。 clipper 導入により手軽にリストループとアックス本体を分離できるようになっているので、 こんな時にもその恩恵をうけることができる。 次(f5)はやや傾斜もゆるく、氷も安定していたので やはり落氷出さないよう慎重に登り切ったが、吉川さんが来ないので、 しばらく待っていたら、何か声が聞こえた。

こりゃおかしいと思い、クライムダウンで引き返し、 f4の中のテラス状の箇所でアイスピトンでセルフビレイをとった。 f4途中でアイスピトンで自己確保して停止していた吉川さんに、 背中のザックからロープを出して上に投げてもらう。 何度か失敗したが、どうにかうまく掴む事ができた。 これを使って彼をビレイし、ピンチ脱出。 最後f5はそのままリードしてもらった。 その上で沢は開け、ナメ状の氷(f6)があったのでそれを登って終了とした。

未知のルートは面白い。

帰りに通りかかると錦滝が空いてたのでついでに登ってかえることにする。 林道脇のあずまやで他のパーティーの方がお汁粉を大きな鍋で作っておられたのだが、 それが余ってしまったとのことで、アツアツの餅入りしるこを我々もご馳走になる。 γルンゼの下降で腹がへっていたので、とてもおいしかった。

錦滝は40mほどのルートで、そのうち半分くらいが 垂直弱の傾斜。 ピトン7本持って出発。 5本使用。 昼間に講習会で散々登られたため、 核心部は階段になっていて、 傾斜のわりには簡単だった。 しかし、この日は夕方から非常に冷え込み、3000mで-18度まで下がったようだ。 それなのに、上着を持たずに来てしまったので、 吹き晒しの終了点でビレイしてたら非常に寒かった。 なんせカッターシャツと中厚のフリースの2枚しか着てなかったからな。

ビレイ中に奥の滝から降りて来た人が、わしの北辰にクギづけになっていた。 「あ、ミゾーだ」 「ええ。ミゾーです」 (ちょっと振ってみて) 「おお!軽い!」。 ふはは。 軽けりゃ良いってもんじゃねんだぜ。なんてな。 clipper が、いかにも「出荷時からここに付いてます」 という風情で付いていて、一見気づかないのもポイント(何の?w)高いぜ、 と自画自賛。 そして今回も俺様の北辰は相変わらず、必ず一回のスイングで氷にブっ刺さり、 その威力を遺憾なく発揮したのであった。

なお、今回導入した charlet の clipper という リストループのクイックリリースシステムだが、 これはとても良かった。 わしの今使っている手袋は、 カラビナのゲートを開けばまず間違いなくゲートにはさまって、 おかげで肝心のロープやハンガーにクリップするのはうまくいかず、 怒り心頭にして腕力衰滅という 最低の操作性を誇っているのだが、 このクソ手袋であっても簡単に片手で着脱可能で、 登攀中に発生するさまざまな作業に具合がよいのだ。 結果的に安全性の向上にも寄与すると思う。 手首の締め加減が未だ良く判らないけどね。

そして吉川さんの新しい靴も、その威力を十分に発揮したのであった。 「もうプラ靴じゃ登攀はできない」とのことだ。 そうなのか…

ゴジュウカラの声が聞こえたようにおもったが、姿は確認できなかった。 アプローチでは他にウソの声も聞こえたが、これも姿は確認できなかった。 アプローチの帰りにジョウビタキが林道を横切った。