積雪期一ノ倉沢(2006/03/05)


チャンスがなくて、一度も行った事がなかったが、 実は谷川岳は八ヶ岳よりアプローチが近い本格派の冬山なのだった。

今回は吉川さんと一ノ沢右壁の左ルンゼというのを登る企画。 わりとチョロいめのルートをシーズン最後にサクっとやって帰りはロープウェイという 比較的楽ちんな趣旨のはずだったが…

出発は土曜夜。21時に吉川さんがクルマで拙宅前までお出迎えで 非常に恐縮です。バタバタ慌てて荷物を詰めてでかけたら、 靴下とか忘れた。またかよ。

靴下は吉川さんに借りた。本当にすみません。

12時どあい着。ロープウェイでちょっと寝る。 宴会やってる奴が居り、やかましくてあまり寝られず。 3時まえ起床。 気温が高いので装備に迷うが、オーバーパンツも置いて行く。 ジャケットは元々持って来てないというのも論外だが。 アイスピトン4本。 ロープは50m2本。 スリング多数。 アプローチの歩きは暑かったので、 オーバーパンツ無しは正解のように見えたが… 行動開始は5日午前3時。 登山指導所で計画書を出す。 他の会の計画もチェック。

一ノ倉沢出合で4時。星がきれい。 一ノ倉は東向きなので、正面から白鳥座がのぼってきたところだった。 滝沢下部にヘッデンがちらほら。 計画書で見た三スラのグループだろうか。 ここでクランポンを装着して行動開始。 夏なら「ここから先は特別危険地区。一般登山者立ち入り禁止」 という看板があるところ。 「よーし生きて帰るぞ!」と吉川さん。

一ノ沢に入ってしばらく登って右の枝沢に入る。 暖かくなるまえに安全地帯に脱出するため、 とにかくラッセル全開だ。どりゃー! 雪面はかなり固く締まっていて、かなりの傾斜なのだが 非常に歩きやすい。 こんなに締まって歩きやすいのはそこが雪崩の通り道だから。 生きて帰るために必要なもの、それは速度!うりゃー!!

どうもルート違ったらしい。一ノ沢まで降りる。 こっちだろ、というもう一つの枝沢に突入。 またラッセル全開。この頃夜明け。 なんかソレっぽい滝をロープ無しで突破。 急な雪壁はよく雪が締まっていてスピード出せる。 急な草付きも凍っててピックも足のデバもよく効く。

このあたりで本格的に明るくなり、どうもコレ、違うんじゃ?ということに。またしても。

もういまさら引き返しても危ないから、いいや。 もうこれ登っちゃおうぜ。ということになった。

徐々に日が当たって草付きも緩んできた。傾斜も80度くらいになって、 さすがに何かあるとまず無事じゃ済まない領域で、 遂にロープ出す。 気が付くと一ノ沢左尾根を二人パーティーが登ってる。その1ピッチほど上にはカモシカが。

どんどん傾斜が増えてきます。 登ってると、ガクンと俺のハーネスを引っ張る奴が居るので、 何かと思ったら木です。 岩場に生えてる木が俺のアイスピトンぶら下げてるギアラックにクリップされてんの。 しかもけっこう太い木。 よくゲート入ったな。 外すのむちゃくちゃ大変。 ドライツーリングで岩場を登り、木にぶらさがってハンギングビレイ。 このピッチでおもいっきりハンマー北辰で石ブっ叩いてしまいました。 なんてこった。 この上のピッチを抜ければ稜線に出そう。でも、どこの稜線か判らないけど。

ツルベで吉川さんにリードしてもらう。草付きがグズグズで悪い。 出口のところはよく見えないけれど、稜線に生えてるシャクナゲに 雪庇がかぶさっているようにも見える。 これをほじくるか切り崩して尾根に出ることになるのかな?

どうもビレイ態勢があまりよくなくて、ハーネスで腹が圧迫されて非常に苦しい。 しかもオーバーパンツをはいてないので、ズボンが雪で濡れると マジで寒い。 全身震えが来る寒さ。 手袋も草付きバトルでビショ濡れだ。 そこにリードの吉川さんの雪工事がドサーっと降ってくる。

「うひゃー。傾斜ありすぎ」「墜ちるかも」という吉川さんの声。 またまた、そんな事いって、いやー吉川さんは墜ちないでしょ。 まぁ落ちてもビレイ点はけっこうちゃんとしてるから、 大丈夫でしょーなどと思いながら、 寒いところに ハンギングビレイで何時間もブラさがりっぱなしというのも なかなか辛く、睡眠不足もあって、ハンギング気絶寸前。

じつは、このピッチは尾根にぬける雪壁の傾斜が80度くらいあって、 しかも雪は腐ってて何かするとすぐ崩れるという 非常に進退窮まりかつ、全ての一手がミスの許されない一手という 神経すり減るピッチなのだった。

この壁の登攀は永遠に続くかと思われたが、時計を見るとまだ9時半! 午後2時くらいかと思ったぜ。

吉川さんからビレイ解除のコールは10時半頃。 さーて、行くべか。やっとこの寒さから開放される。 またドライツーリングで岩場をトラバースして草付きに移る。 寒さでこわばった体のせいか、 気温が上がって緩んだせいか、 登ろうとしたらアックスが草付きからスッポぬけていきなり墜落。 うひー、やっちまったぜ。 雪壁から吉川さんが降ってきたらどーしよ。 二人まとめて、一ノ沢まで重力お任せ下山なのか?

ほ。大丈夫だった。

いよいよ核心の雪壁に移ります。吉川さんが大工事したあと、 更に温まって緩んでます。 雪庇切り崩してできたチムニー状に入り込み、上昇しようとすると 手がかりに刺したアックスのシャフトがすっぽぬけてバランスくずした。 幸い、背中がチムニーで止まって墜落しなかったけど。 こりゃ俺には無理! というかこれ吉川さん、どうやって登ったんだ? 「これ俺無理。登れねっす。落ちるかも。落ちても大丈夫ですか?」 「大丈夫ですよ」

そうか。大丈夫なのか。 よーしいくぜ。 しばらくもがいてると徐々に雪壁の登り方思い出してきた。 足場や手がかりを手や膝で作って、それにビミョーに体重かけながら登るあの段取りですよ。 アイスアックスなんて全く効かないから、頼りになるのは手。 雪にチョップかまして自分で掴むところをこしらえて、これをじわーっと掴んでじわーっと登ります。

じわーっ じわわーっ うひー、崩れるなよー。 じわわわーっ。 あらゆるこの調子です。 遂に稜線出た!やったぜ! でもこれどこの稜線? 向かいの岩場をみると、標高はエボシ岩くらいだね。 つまり、上までというとまだだいぶあることになるな。 さらに、今どこか判らないから、この上がどうなってるか判もらない。 今にして思えば、あと1-2ピッチで1,2の中間稜下半部終るくらいのところに出たように思うが、 既に俺らのヤル気はここで尽きていた。 もう懸垂で降りよう。敗退上等。

俺のロープも出して、連結。 面倒なところは50mで3ピッチだったから、 ダブルで3ピッチ降りれば歩ける傾斜に戻れる計算だ。 谷川で敗退とくれば、懸垂のロープはひっかかって回収できないものと相場は決まっているが、 さて、どうなるか。

いやー、これが一回もひっかからなかったんですよ! 「日頃の行い」という言葉が頭をよぎりましたね。この時ばかりは。

幸い、俺らが居る方の沢は、もう日陰になってきて、 雪も安定してきてる。 これならスキーで滑べったりできそうだ。 出合で生還を祝って握手をかわし、記念撮影は14時。 そこからアプローチを歩いて車に着いたのが15時過ぎ。今回は12時間行動でしたが、 そのわりには疲れました。

今回は雪は腐ってたし心理的にも体力的にも消耗したけれど、 見てると、日がさした沢は雪崩が出てたけれど、 俺らが登ってたところは雪崩も落石もなく、 基本的には比較的安全なアルパインクライミングだった。

上は、吉川さんが撮影した写真で、一ノ沢が本谷に合流する手前から俺らが登った方面をとったもの。 雪崩のあとをのんびり歩いてるのが俺。 正面が1,2の中間稜で、 その左の細い沢が一ノ沢。 黄色が俺らが登ったラインでピンクは最初に間違って入った枝沢。 計画で登ろうと思ってたのは、一ノ沢をもうすこし登ったところの右の壁(写真には多分写ってない)。

帰りは二人とも消耗しきっており、 フロはいってメシくってSAで気絶(仮眠ともいう)して23時すぎに帰宅。

いやー、この季節の谷川は良いスね。

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