垂直の世界へようこそ


アックス

とにかく, アイスアックスだ. これがアイスクライミングのキモだ. 無論, 達人にヘボいアックスと初心者に 村正みたいなのを持たせたのを比べたら, そりゃ達人の方がうまく登れるさ.

でも, 達人のアックスはシロートのよりも ずっとよく刺さるのが普通なんだよね. 無論, 使うのがうまいってこともあるんだけど, それは, 要するに, よく手入れしてあるということなのだ. コウボウ, 筆を選ぶのである. よく効くアイスアックスを選び, それをさらに, 自分やルートに合わせて仕上げる. これもアイスクライミングの重要な技術の一つである.

一回で効くアックスと何回も振り回さねばならないものでは, 自ずと消費する腕力も心理的な余裕も違って来るというものだ.

足 何処を蹴るべきか

極めて強い傾斜では腕の負担が大きいので、それを減らす工夫が重要だ。 登りやすいのは、凹角状のラインだ。チムニーを登れば足に体重をほとん ど預ける事が出来て、手がラクだが、それと同じ事が言える。だから、脚 を開こう。

脚を開くのは、他にも理由がある。それは、アックスを打ち込む時のバッ クスイングである。 バックスイングを取ると、バランスを崩しがちだ。これは、特に傾斜がき つくなって来ると顕著だ。 しかし、バックスイングを取れないと、アックスは全然刺さらない。 バックスイングを十分とって、バランスを崩さないためには、脚を開いて アイゼンをしっかり決める事だ。

ルートを凹状ぞいのラインに取れば、脚を開いてアイゼンを決めるのも容 易になる。しかし、いつも凹状があるとは限らないから、そうでない所、 凸のところでも、左右に開いてアイゼンを決める事が出来るかどうかは、 うまいかへたかの別れ道になる。

手 何処に刺すべきか

正確に狙おう! 氷の上に、ガンクロスを想像する。そして、その一点を ピックで貫くのだ! 氷によるが、平板式のピックは、それはもう全然氷に刺さらない。 実際考えてみればすぐ判るが、氷にあんなもんを刺し込んで、氷が壊れな い訳がないのだ。 初心者が陥りがちな妄想に、両手にあんな凶暴な道具を持ち、両足からあ んな牙を生やしたからには、もう、登れないルートなんか存在しない!と いうのがある。そんな訳がない。 刺さらない所を列挙してみよう

  1. 青い透明な氷
  2. 凸状の部分
  3. 新しく凍った氷
  4. つらら
一方、刺さる所は、
  1. しょんべん色の不透明な氷
  2. 凹状のところ
  3. 古い氷(表面を破壊すると、出て来る)
  4. ツララの間
  5. 白く不透明な氷(気泡入り)
  6. 先人の刺した後(反則ぎみ)
  7. 一回狙って失敗した跡

良く刺さる所のうち、ツララの間などは、まさにミリ単位の狙いが必要だ。 しかも失敗したらでかい落氷が発生してバランスを崩したり、怪我したり、 ビレイヤーに直撃したりするので、狙いの正確さは必須だ。 一回狙って失敗しても、他のところを狙ってはいけない。脆くて壊れやす い氷が除去されて、刺さりやすい安定した氷が出て来たのだから、もう一 回同じ所を狙うのだ。 2回同じ所を狙うのも、けっこう正確さが必要だ。

アックスのスイング

アイスアックスが氷に刺さったとして、その状況はどうなっているだろう? おおむね下の図のようになっているはずだ。

氷に刺さったアイスアックス

刺さったピックの角度に注目して欲しい。下を向いている。 これが、下を向いているのは、登攀用のアイスアックスとして、きわめて 本質的な性能だ。シャフト方向に加重した時に、ピックが氷から抜ける方 向に力がかからないためには、ピックとシャフトの角度が、このような設 計になっていなければならない。

ピックの下側にはギザギザの歯が付いているが、極端な話、これらはピッ クの角度が適切でありさえすれば不要である。 また、ピックの角度はシャフトの長さとも密接な関わりがあることも判る だろう。

単にシャフト末端を握って振り回したのでは、ピック先端の移動方向は、 ピックが刺さるべき方向とは一致しない。

ピックと方向

だから、ピックを効果的に氷に刺すためには、ちょっと物理的な言い回し をするならば、ピックの刺さるべき方向と、 スイングで与えられる運動量の方向を一致させねばならない。 そのためには、 スナップを効かせる。インパクトの瞬間に強くスナップを効かせるのだ。アッ クス全体を下に引く感じになる。

こういったテクニックを極めて強い傾斜のルートで使えるようになるため には、やはり、ある程度の経験が必要である。

垂直でのムーブ

垂直あるいはそれに近い箇所では, 腕にかかる負担が 80度くらいの箇所とは段違いだ. たとえ上昇せず, じっとしているだけでも腕力を消耗して ジリ貧である.

そこからさらに上昇しようとすると, これは並大抵のことではない. そこで, ただでさえ乏しい腕力をできるだけ節約し, 高度を稼ぐ技術が本質的になってくる.

つまり, ヒネリをくわえて遠くまで手を延ばそうということなのであり, 要するにフリークライミングと同じような技術が有効なのだ.

フリークライミングと違うところは, なんといっても脚だ. フリーなら, ステップに足を置いたまま右によじったり左によじったり 比較的問題なく捻り動作が行なえるわけだが, 氷でそんなことをしたら, いっぺんにアイゼンが氷から抜けてしまうだろう.

だから, 氷ではそういうムーブは不可能でありパワーだけが勝負の 分かれ目だと思うのはあさはかである. 適切な方向に足を蹴り直せば良いだけの話だ.

このように, アイスクライミングでは, フリーよりも頻繁に 足を動かした方が良い結果が得られる. たとえどんなに心理的に追い込まれたとしても, できるだけ冷静に足のポジションを考えてヒネリを活用し, 腕力をセーブしよう. 有限の資源をうまく活用した者だけがルートを完登できるのだ.

リードとプロテクション

並の腕では、片手でアックスにぶら下がったまま、片手でプロテクション を設置するなど出来る事ではない。まあ、できるならば、その方が良い。 なぜなら、簡単で速いから。 しかし、うっかりプロテクションを落してしまう可能性もあるから、リー ドで中間支点を取る時は、アイスアックスからぶら下がった方が良い。そ うすれば、両手で作業する事が出来る。

ぶら下がらないまでも、シャフト末端にカラビナをかけて一時的な中間支 点とし、それから支点設置作業をすると、多少気が楽だ。

中間支点のアンカーには、断然 Black Diamond のチューブラーアイスス クリューだ。これ以外は考えたくもないね。気温がそれほど低くなければ、 適当な安もんでも通用することもあるが。

スクリューが奥まで入り切らない場合は、タイオフというのがクライミン グ界の常識だったが、じつはそれは誤りらしいということが最近判明して 来ているという。わしは自分で実験してみたわけではないのだが、どうも アメリカのクライミング雑誌にそういう記事が掲載されたという事だ。

タイオフ

tie-off せずに、多少(といってもどれくらいかは知らんが)氷から出っぱっ ていても、ハンガーにヌンチャクをかけて、ロープをクリップした方が良 いらしい。

というのも、タイオフしたスリングは強度が低くて、支点が壊れる前に、 スリングが切れてしまうんだそうだ。これは、タイオフ時のスリングの巻 き方が原因かも知れないが、詳しい事は良く判らないのだ。

Jeff Lowe のビデオにも、ピトンを2本使った凝ったタイオフが出て来た が、 まあ、これらタイオフ問題についてはそのうち詳しく研究して、また記事 にするよ。

安全な退却

終了点までたどり着けば、たいていは安全に降りる事が出来るだろう。沢 ぞいのルートなら木が生えてるもんだし、ゲレンデになっている所ならボ ルトやピトンが打ってあるだろう。

しかし、数ピッチに及ぶルートや、途中で退却する時などは、これはもう、 並たいていではない。特に、登り切れずに退却する時は、既にその時限界 に近付いているのだから、さらに危険と困難を克服せねばならないとなれ ば、これはまさしく大ピンチだ。

そんな時も、高価な舶来のアンカー類を残置するのはしのびないものだ。 そこで、ボラードである。

ボラード