午前6時半起床. 昨日の夕食の残りで朝食をとり, 最終的に荷物を詰めて, 7時半に家を出る. 結局, でかくてかさばる荷物は俺のデカザックに入れることになった. 潜りセットなどを入れると, かなりの体積と重さになる. 結局食糧や着替えで冬山フル装備くらいの荷物になってしまった. これを担いで浜松町まで行くと当然, かなり汗をかくことになる. なんせ, この日は午前中からけっこう蒸し暑かったからな.
船は, 当然の 2等船室でザコ寝なのだが, ひとりあたりの場所はかなり狭くて, 混雑しているときの山小屋並だ. しかも 団体のガキが100匹ほど居り, これがむちゃくちゃにうるさい. 小笠原ってのは, ガキが団体で来るような場所じゃないんだけどな. なんせ, 行くだけでかなり気合いが必要だからね. 今日は台風8号が台湾の方へそれたが, その余波でうねりがわりとあった. すると, 便所と洗面所はガキで埋まってた. わはは. 馬鹿め.
などといってるうちに, 俺も夕食をくって, 遠くにあるテレビで上映している映 画を双眼鏡で見てたら, かなりグルグルになり, ゲロ寸前までいきました. あれはヤバかったな. 船酔いは, 寝ると直るのである. 起きると再発するが. 今, この記事は船のロビーのコンセントにマシンをつなぎ, 床にへたりこんで書 いているが, 今, 若干グルグルがキてます. コンピュータも船酔いには良くない模様ですな.
夕方には八丈島を通りすぎ, 綺麗な夕日が見えた.
うねりはせいぜい 2m か3m ほどのものでたいしたことないのに, こんなにくるのはどうしてかな. 以前, 波が10mくらいあったのも経験したことがあり, そのときはまっすぐ立っ て歩けなかったものだが, 船酔い自体は全然何ともなかったのだ.
やはり, 他の客は scuba が多い. わしは, 海方面はシュノーケルで漂っている だけの予定で, 場合によっては船(カヤック)もやるかも, という予定だが, 小笠原の面白さは海だけじゃないのである. 島に着くのは明日だが, さて, どうなることやら.
夜中に外部甲板に出て空や海を見るのは楽しい. 星がとても綺麗だったが, すぐに曇って見えなくなった. 結局, 昼間寝すぎて夜の寝つきが悪く, 2時すぎまでうろうろしていた.
船の朝は早い. 6時には室内の照明が全部点灯され, 7時には食堂が開く. しかも驚いたことに, 6時から室内のテレビでビデオが上映されるのだった. プログラムは, インドの映画「踊るマハラジャ」シリーズだ. これを延々とやる のだ. 朝っぱらから. 睡眠不足で船酔いのところに, 「踊るマハラジャ」は効きます. マジで. 頭クラクラしたぜ. どういうセンスしてんだ. 船酔いしてるところにアレみたら喜ぶとでも思ってるのかね. わからん. もうパブロフで, 「踊るマハラジャ」見たら速攻気分悪くなりそうだよ.
そうこうするうちに島が見えて来て, 定刻より 1時間遅れで到着した. 26時間30 分の船旅だった. 島に近付くと, どこからともなく小さい船が 2つ出現し, わしらの船に付いて来た. 歓迎しているのである. 揺れがけっこうあったことも加わって, しっかりした地面に下 りた後でもなんか揺れているような感じを何時間か味わった. とりあえずでかい荷物だけを宿に送り, 町で昼飯喰ってぶらぶらしてから宿に迎 えに来てもらった. 全面的に空は曇っており, 時々雨が降った.
宿は小笠原に天助が来た時に泊まったというだけあってけっこう綺麗だった. すぐ前が浜で, 天気もおり良く曇りなので, すぐに海に行くことにした. 海はここ数日けっこう荒れていたのでわりと濁っていた. ものすごく巨大な40cm くらいのベラが居たり, スズキの群れがいたり, ウミウシが泳いでいた り, 僅かの間にそりゃあいろんなものが見られた. 大雨が降って来たが, 海に潜っていれば関係ない. しばらく潜って遊んでいたが, 嫁さんが寒くなって来たというのでしょうがなく 引き上げる.
夕食はホテルで喰った. 刺身や魚の煮つけとフィレのステーキが出た, 奇妙なメ ニュー. でも, うまかった. 明日は今日よりも天気はどうなのかね. 星を期待したが, 全然見えない. 11 時に天気予報を見てから就寝. 予報によると, 雨だそうだ.
朝食後, 乗り合いバスにのり, 小港海岸まで行き, そこから歩いて 150分で ジョンビーチというところに着く. ここは, 海中公園として指定されているところだが, 石灰岩地形で, 珊瑚礁が綺麗らしい. ちょっとしたハイキングなのだが, 曇りがちで良かった. それでもかなり暑くてまいった. しかし, 途中の道はいろんな動植物が居て, 非常に楽しかった. 家で「はからめ」という植物を飼っている. これは, 小笠原に生えているもので, 地面に落ちた葉から芽が出て増えるという, 極めて熱帯的な, 非常にええかげん な殖え方をする植物だ. 名前もかなりええ加減で, そのままですな. これが, 途中の道ぞいに群生しているのだった. 花の季節は終っているみたいで, しおれた花茎が幾つかみられた. 生えている環境は, しめりがちな岩とか, 下ばえが道路で終るところなどで, どうもそういうマージナルな植物のようだ. よく見ると, 舗装道路沿いにもたく さん生えていた.
アノールトカゲという全身緑色のトカゲがいるのだが, これも何匹かみかけた. 写真も何枚か撮った.
浜や歩道にはヤドカリが居る. 近付くとゴソゴソとカラの中にもぐりこんでじっ としているが, こっちもじっとして観察していると, だんだん出て来て歩き始め る. これが, 歩道のそこらじゅうに居て, わしらが通りかかると慌てて殻の中に 引っ込むのだが, 足場がわるいので, そのまま坂をころげ落ちて来る.
道は主に海岸の斜面を辿って行くのだが, 植生が非常に豊かで面白い. ヤシの, パイナップルの類, マメ科はネムと, もうサヤがはじけてしまっていた, ヘンテコな豆, 幹の途中から即物的に気根を斜め30度に伸ばすタコの木, ハカラメ, ボダイジュ, ガジュマル.
鳥は, メジロが多い. 小笠原固有の種としてメグロというのが居るのだが, これは見れ なかった. 腹の赤いヘンテコなヒヨドリみたいなのがいっぱいいた. この, ヒヨドリは人が近付いてもあまり逃げないのだった.
時々, 道が尾根を通ることがあり, そんなところは風が強くて何も生えてない. 近所に熱帯性低気圧があるのだが, この影響で完全に晴れることが無いので 暑くなくて行動しやすいのはありがたいが, 風も強く, 波も荒くて海で遊ぶのは なかなか大変だ.
何度かお茶のんで休憩しつつ, 午前11時ころ, ようやく目的地のジョンビーチに 着いた. ほとんど人が居ない. こりゃかなり遠いです. まじで. 帰りのバスが 4 時だから, 2時すぎには帰らないといけないわけで, 3時間しか居られないわけ だ. こりゃちょっと遠すぎじゃ.
沖の方は非常に潮が強くてあまり遊びに出るわけにはいかないので. そこらへん でシュノーケルと足ひれでうろうろする.
昨日も幾つか見掛けたが, このへんはシャコ貝(左図)が多い. シャコ貝は, サンゴや岩のさけめにギューっとくっついて, 大きさは 5cm くらいから 50cm くらいまで, いろいろだ. 口を半開きにして, プランクトンを漁っている. 半開きの口から見える中身は紫色あるいは濃い青の, 鮮やかな色だ. その青いビラビラには目玉が何個か仕込んであると聞いた. 確かに, 俺が潜水して襲いかかろうとすると素早く口を閉じるなど, なかなか生意気な反応を見せていた.
昨日, 貝をちょっと引っ張ってみたが取れないので諦めてたが, 今日も挑戦してみた ら, 若干動いた. これに気を良くして息を一杯吸って潜り, 両手で掴んで思いっきり 引っ張ってみたら, ごそっと取れた! 奴はそのまま転がって深いところに落ちたが, 拾いあげて宿まで持って帰って来た. シャコ貝は, 噂によると貝柱がうまいらしい. 料理するように頼んでみたが, さて, どんなもんやら.
宿の前の海は西を向いているので, 海に沈む夕日が見えて, とても綺麗なのだっ た. 写真撮って, フィルム取り換えようとして気づいたが, ASA 100 のフィル ムを使ってるのにカメラの感度設定が 400 になっていた. しかもリバーサル. ダメだこりゃ. 二度とこういうことが無いように, ファインダ窓の上に カンドアワセヨ とナイフで彫り込んどいた.
貝は, 貝柱はけっこううまかった. 縁側の方は, イマイチ. つうか, サイズは 25cm くらいあったんだけど, 喰うところはちょっとしかなかっ た. その貝殻の重いことと言ったらないね. 貝殻は猛烈な厚さで, あれはほとんど貝殻 の重さだね. 中の方に身がちょびっと入ってるだけである. 宿では刺身にしてくれた. そして夕食時に貝殻に盛りつけて, ワサビとレモンを添えて持って来てくれ た. このメニューが来るのは, 当然ながらウチのテーブルだけなのであり, 他の奴には来ないのだ. うっしっし. ざまあみろである.
貝殻は, 洗ってもらい, 家に持って帰って灰皿にすることにした.
今日は雨という予報だったわけだが曇り時々晴れで, わりと遊べた.
明日の天気はどうかのう.
朝 7時半起床. 朝食後, 一番バスに乗り海へ行く. ガイドマップで「サンゴが発達しており水中生物が豊富」という触れ込みの浜へ 行くが, サーフィンできそうな程の波が押し寄せており,水が濁って何も見えない. 見えないので, その発達したサンゴでを怪我した. こりゃどうしょうもないわいな, と思い, 引き上げるべく泳いでいたら 砂の中に高さ2m くらいのサンゴが林立している地帯にさしかかった. サンゴ毎にいろんな魚がまとわりついているのが面白いので見て回っていたら, 底の方にものすげえでかい魚が居た. 最初, 砂の模様かと思ったくらい地味な魚で, 大きさもよくわからなかったが, じっくり見ていると実はものすごくでかくて, 1m50cm くらいあった. なんせ, 至近距離なのでたまげて「うわあこりゃあでかい魚じゃのう」と思わず声に出し て驚くと, 魚の方も驚いたらしく動いたのを見て形がはっきり判ってびっくり. 鮫だった.
鮫といってもこの辺の浜にいるのはネムリブカというおとなしい鮫で, 貝とかが主食だというから喰われる心配は無いわけだが, 至近距離で 1.5m の鮫 を見るのは, やはりびびるものだ. なんせ, でかいからね. 1.5m の魚が口あけたら, わしの足なんかすっぽり入るだろうからね. そう考えると, そりゃどうしてもビビるよ.
この浜は, 確かに生物は豊富なようだが, 波でかきまわされて水が濁っていて何にも見えないので, 隣の浜へ移動した. 隣の浜は島で随一の海水浴場という話だが, 随一というのはどういうことかというと, 売店があるという意味なのだ. バス停もあり, トイレもあった. じゃあ他のところはどうなっているかというと, 単に浜になっていて, そこへ行く道がついているというだけである. どの浜にもうるせえ見張り等は全く居ない. それどころか, 人が誰も居ないこともある. 浜へ行く道はけっこうけわしかったりして, 歩いて1時間とか かかったりするこ ともあり, しかもこの日差しなので, うっかり水をもってなかったりする と悲惨である. そんなわけで, わしらはこの 2日間というもの, 飲み水その他で 2人で 5000ml の水を持ち歩いていたのだった.
隣の浜は比較的, 波が穏やかで水も濁っていなかった. 上から見たら, ちょっと沖の方にサンゴがあった. その周囲はきっと魚が沢山いるに違いないとおもったが, 確かにその通りだった. いろんなサンゴと, その間に潜む色んな魚は, テレビや写真とかでみかけるその ままだ. サンゴが尽きて深くなるところは, 壁のように深く一気に落ち込んでいる. 壁には大きな魚が何匹も居る. 緑色のハデな奴だ.
このサンゴは浜からちょっと離れたところに飛び地状に存在しており, その周囲をぐるぐる廻ると色んな魚が見れて楽しい. 50cm 前後の全身黄色の鯛の仲間やら, アジの群れ, ハタ, 内地で見たこともないくらいに巨大化したベラ, よくわかんない緑色のもの, そして, ブダイ. 青ブダイも何匹か居たが, その中に 80cmくらいのでかいのがおり, 貝をバリバリ喰っていた.
十分潜って遊んだので, 今度はバスで船の着く港まで行った. 養殖した海亀の子供を放流するというので, それを見に行った. 海亀の子供は体長 7-8cm で背中は黒, 腹は白, ドタバタとやたらと元気が良い. 浜に並べると海に向かって慌てて走って行き, 波に巻かれながら泳いで行った. 奴等にはこれから先, 厳しい人生が待っているのである.
それが終ったらちょうど良い時間だったので, 西向きの崖がある三日月山という のに登って夕日を見た. 山は 200mあり, 約 1時間の行程. しかし, 西の方に低気圧だか前線だかがあり, 肝心の沈むところで全然ダメだっ た. 山から下りて夕食. 寿司. 夕食後, 表に出ると盆踊りの練習をやって いた. ちゃんと「小笠原音頭」というのがあり, みんなで練習していたが, その他の曲目はかなりデタラメで, 良い感じ.
タクシーで宿へ帰るときに, 運転手に「さっき, 夜光キノコのガイドをしてきた ところだ」という話を聞き, いきなり「わしらも連れて行ってくれ!」と 頼んで夜光キノコを見る. なかなか奥まったわかりにくいところにあり, 知らないと見付けることは絶対不可能だろう. 以前, 月夜茸というのをみたことがあるが, これは闇夜にヘッデン消して 行動していて判るかどうか, という明るさなだ. しかし, 小笠原の夜光キノコ「グリーンペペ」は, かなり強力な蛍光グリー ンの光りを放つ. その明るさは, ファインダを通して焦点を合わすことができるほどだ.
宿に戻り, 風呂に入る. 今日一日で背中が日焼けで大変なことになった.
夜, 晴れているので少し星を見る. 天の川がよく見えて「銀河系の中のわ しら」というかんじがけっこうする. 宿やら道やらが明るく, また南が必 ずしも開けてないのでちょっと残念だったが, 本土ではなかなか見れない M7(オメガ星雲)なんかが非常にはっきり良く 見えた. 射手座方向が良く見える場所というのは本土ではなかなか限られてしまう ことになるが, ここはものすごい. しかも緯度が 27度なので, 普段は地 平線ギリギリで見ている天体も余裕で見れるのだ. サソリがあんなに高い なんて! 久しぶりに射手座方向を詳しくみることが出来て良かった. 28mm F3.5 1分露出で天頂を一枚撮った. ペルセウス座流星群の極大が近いが, それで何個か流れ星を見た.
宿をチェックアウトして港に行き, そこでうろうろして土産物などを買う. 土産物といっても, 誰かに買って行くものではなくて, 家に買って帰るものだ. それも, 荷物がでかくてしんどいので, あまり沢山は買えないのだ. 荷物は, 行きに買って行った果物とかが無いが, その代わりにシャコ貝の殻があ り, あまり軽くなってないのだ.
魚の薫製がうまそうだったので, トビウオとカンパチの薫製を買った. 島で取れた蜂蜜も買った. これは, 独特の味と色と香りで, なかなか熱帯風味に 満ちた逸品. 土産といってはこれくらいである.
桟橋のすぐ近くにも浜がある. 浜は昼間は海から風があるので, 日陰に居れば涼 しい. 公園に緑色のトカゲが居てノドを膨らませてたので, 写真を撮った. 船に乗り込んでから出発まで 1時間くらいあったが, その間にタイコを叩くオヤ ジが出て来たり, 小笠原の船出は, 何だか意味不明な盛り上がりを見せるのだ.
わし等の船が稽留されている近くには, 民宿とか渡しとかの船とか, シーカヤッ クとかがたむろしている. 船の中には犬積んでるやつとか, 子供が鈴なりに乗ってる奴とかがある. 小笠原丸が出発するときには, こいつら小さい船が, 見送りにしばらく付いて来る. 前回, 1989年に小笠原に皆既日食を見に来たときも, 船出に見送りの小型船が付 いて来たのだった. こいつらが付いて来る様子はかなりアナーキーで, ポールモーリアだか何だかのムード音楽を音が割れるほどの大音量でかけながら, 付いて来たものだ.
今回も, 何隻もの船が見送りに来て, おかしかった. シーカヤックは, 小笠原丸が出発の汽笛を鳴らすと転覆した. 転覆すると, 船底に「マタキテネ」と書いてある. そして, エスキモーロールで復帰するのだった.
10年来ない間に, 新しい風習ができていた. 「見送りはここで終り」というところに来ると船が停止し, 乗っている奴が次々と海に飛び込むのだ. 見送りに来てた船は, 一隻, また一隻と停止しては, デッキから客やらスタッフ やらが次々と海に飛び込んでいた. あいかわらずアナーキーな島だ.
小笠原の歴史は, ほんの100年あまりしか無いので, 沖縄のように長年培われた 独特の文化というようなものはない. 島に旧石器時代の遺跡は存在するが, 1800年代に人が移住して来たときは無人島 だった. それ以後, 欧米や太平洋諸島, それに八丈島からの移民が混ざっ て, 言語からしてごちゃまぜのええかげんなものになった. 島の住民が移民でできているので, 古い歴史に基づく深い文化は無いが, よそから来た人にも親しみやすくて開放的なのだ.
それがもっともよく現れているのが, この船出である. 船が行ってしまうのは悲しく淋しいが, しかしそれをじっくり表現するの はこの島の風土ではない. アナーキーな陽気さで見送ってしまうのだ. だが, この島に飛行場ができたら, この場面も, もう見られなくなるだ ろう.
島は水平線の向こうに沈み, 夕暮れになった. 西にでかい雲があって, 夕日はたいしたことなかった. 夜には一時, 雨も降ったようだ.
一通り買物してから家に帰って, 夕食に素麺, なすと豚肉の炒め物を喰い, ビデオを観て寝た. シャコ貝の貝殻は, 宿のオヤジが言ってた通りに漂泊 剤に漬けといた.
また行こう. こんどは 10日ほど行こう. それに, ジャングルも探検しなきゃね. 小笠原のジャングルは, とても楽しいのだ.