今年の冬もそろそろ終り(2007/02/28)


2007/02/27

SR-71が引退してずいぶん経つ。 引退後にも何度かあった局所紛争時に、再び飛ばそうという話しはあったようだが、 結局実現されることはなかった。

なぜなら、これを飛ばすのは非常に大変だから。

まず、燃料からして違う。 普通のジェット燃料(テキトーな灯油や軽油など)ではない。 MIL-T-38219 で定義される専用燃料である、 7号ジェット推進剤(JP-7)でなくてはならない。 JP-7は普通に原油を精製して作られるものではなく、 合成燃料である。 熱に対して非常に安定で、沸点(300度弱)も発火点も高温であり、 潤滑作用を持たせるためのフッ化物や 排気のレーダー反射特性をごまかすためのセシウム化合物が添加されていた。

こんなものをジェット燃料として使うと、 普通に点火しないので、 3エチルホウ素をエンジン燃焼室やアフタバーナに燃料と一緒に噴射した。 3エチルホウ素は室温で空気と接すると直ちに発火する難儀な物質である。 SR-71は空中給油機能を持っていたが、 3エチルホウ素を補給する事は不可能なので、 これに起因する運用上の制限が生まれた。

また、操縦も非常に難しかった。 普通に降下すると、エンジンのカバーの方が先に冷えてしまい縮んで、 高速回転している中のタービンと接触して事故になった。 ターボジェットとラムジェットの複合エンジンは、 非常に複雑な空気採り入れ経路を持つため、 雑な空中機動を行うとすぐエンジン停止に陥った。 同じ理由により、ほんのわずかな異物吸入が致命的なエンジントラブルに繋がった。 このため、SR-71の使う通路や滑走路は、わずかな砂利やアスファルト破片に至るまで、 完全に掃き清めねばならなかった。 異物吸引が原因で、テスト期間中に何度も大事故があった。

氷壁登攀具雑感

素手素足では登れない氷壁であってみれば、道具の選択と調整が 登攀者のパフォーマンスに大きく影響します。 達人であればあるほど、この事実を身に浸みてよく知っているわけで、 20年まえのアイスアックスを使っている達人が居ない理由がこれです。 達人になるほど道具にウルサイといっていいでしょう。

dart今年の氷の季節も終りですが、 去年も同じような事を言ってたわけですが、 シーズンも終り頃になって、やっとクランポン「dart」の使い方を掴んで来た感じがします。

つまり一年経つと完璧に忘れるということでしょうか。

でも、去年とは若干違う感じで使えているんですよ。 といっても、まっすぐ直角に氷に蹴り込む必要はなくて、 斜めでもいいとか、 若干腰を落してよく見て蹴るとか、 まあその程度の話しなんですけどね。 左は大谷不動のリードで必殺の片足カウンターバランスを決める俺様の足元です。 小川さん(@JECC)の撮影です。

こいつは、なんか、最近のコンペや極端なルートの攻略から生まれた、 キワモノ商品という位置付けですが、それは全然間違っていますね。 登りでは軽さが嬉しい。 普通の歩きや斜面でも快適に使える、というよりむしろ具合が良いくらい。 そしてちょっとややこしいところでは、まさに本領を発揮します。 つまり機能ないし使い勝手としては、在来のクランポンを 完全に包含する存在です。

しかもかっこいい。

ところでカッコイイといえば DMM のアイスアックスです。 DMM はスコットランドのメーカーで、 昔から、妙に物慾をそそる念の入った作りの製品を出す会社です。 カラビナひとつとってみても、ヨソと同じものは絶対断固作らへんで! みたいな拘りが感じられます。

昔、そのDMMから発売された凶悪なアイスアックスに 「プレデター」というのがあって、 その普通じゃないデザインセンスが遺憾なく発揮された、 しかも当時としてはかなり先進的な設計の製品でした。 ただし、とてもじゃないが俺の腕力で使いこなせる重さじゃなかったし、 俺の手には太すぎるシャフトだった。 しかし、そういうのを一切度外視して、 純粋にオブジェとして欲しいと思わせる造形であった。

同社から去年発売された 「レベル」 はこの系統の嫡流である。 これまたクソ重くてとてもじゃないが俺の腕力では使い物にならないが、 これまた久々に、ミョーに欲しいと思わせる仕上りである。 モビルスーツが持ってる接近戦用の武器にこんなのがありそうだな。 キレイなナイフを見ると、どうせ用もないのに欲しくなるのと同じだ。 むー。欲しいな。カッコイイぞ! 名前も厨房くさくてイカすぜ。 ちなみに同じシリーズの曲がったハンドルのは「アナキスト」です。 同社のアイスアックスはどれも、このような、いかにも良識的な市民が眉をひそめそうな、 へんてこな語彙が名称になっています。 なんせ、「仕事は明日にして、今登りに行こう」がこの会社のモットーです。

これに対し、歴史と伝統のフランス氷雪技術を担う存在である charlet や simond といったフランスの会社の製品は、 ブッタ切り工業製品丸出しで、 どれもいま一つ、モノ自体の魅力に欠けます。 ただし、この一見そっけないたたずまいが、 現場でのスルドいパフォーマンスとあいまって、 オーナーに非常な愛着をもたせてしまうようです。 つまりいわゆるひとつの「ツンデレ」です。

例外は俺様も愛用のクランポン「dart」で、 これは一見してカッコイイですね。 はげしく左右非対称かつミニマルな設計と色気のあるカラーリングが come on baybe light my fire〜です。

とはいえ、氷壁登攀に限っていえば mizo 以上に箔のつくブランドは無いでしょう。 なんせこれを持っているだけで、達人に見えます。 もう見るからに「すんません先に登ってください。俺らあとから行きますんで」 みたいな感じです。 そんなアイスアックス他にありません。 氷壁の達人にして頑固一徹職人という、どっちか一方でも大変なのに、 溝淵さんはその両方を兼備した仙人ですから、 そのオーラが否応無く滲み出ているのです。

ところで達人専用、素人お断り感を色濃く漂わせる mizo ですが、 実際は軽くてバランスが良く、しかも切れ味鋭くて誰が使ってもよく刺さる、 クライマーに優しいスペックで、 イメージに反して初心者や女性にこそお奨めなのです。 特に「北辰」は普通にアルパインにも使えて、 しかもブっ立った氷では比類なき切れ味です。 正しい冬期登攀者のお共にどうぞ。

ice screw sharpening

ということで、勢いにのってアイス スクリュウの研ぎ方でも執筆しますかね。

つまり現代の氷壁登攀技術体系においては、 下図のような器具を氷にネジこんでこれを支点とするわけです。 太さは20mmくらい。長さは200mmから120mmくらいで、 末端にカラビナを通す穴があいてる、鉄板がぶらさがっています。 そんな、一見ええかげんな支点ですが、適切に設置されれば 15KN以上の衝撃荷重に耐える事が判っています。 私も不本意ながらそれを身をもって経験しました。 材料は焼き入れされたクロモリ鋼です。

アイス スクリューの性能にとってキモになるところはそれほど多くない。

  1. 氷にこれをネジ込むためには、先端が、ネジ込んだ分だけ氷を破砕してくれる必要がある。 これを行うのは図中に示す切削刃だ。 この刃先の役割は、ネジ込んだ分の氷を破砕し、パイプ内側に押し込む事で、 要するに切削抵抗の多くはこの刃先で生じる。 したがって、この刃の鋭さと角度がアイススクリューの性能を決める。 ネジのピッチを4mmとすると、 一つの刃で切削せねばならない氷の深さは1mmである。
  2. アイス スクリューの支持力にとって、ネジの寄与するところは非常に多く、 刃先はタップ(雌ネジを切る工具)としての機能ももっている。 したがって、ネジ山が刃先と出会う箇所も、 タップとして鋭い刃になっていなければならない。
  3. 刃先の尖端が最初に氷に食い込む役割をもっているのは形状からして自明だ。 特に、最初の2-3回転の食いつき具合はこの部分の鋭さと角度次第だ。

片手で設置する場合は、うまいぐあいにネジが切れるところまで片手で押し込む事ができるかどうか、 というところが最初の関門だ。 すなわち、片手半回転で、タップが効いていてちゃんと氷にネジが切れれば、 それで支持されてアイススクリューが落ちない、という事だ。 片手の半回転でネジが切れないといつまでも手を放せないので、 支点工作に両手が必要になってしまう。

普通の切削工作では下穴をあけずにいきなりタップを切ることは無いわけですが、 アイススクリューの設置では事情がこうなので、最初の2回転くらいは、 手で押し込む圧力程度であっても 氷に切れたネジ山を破壊してしまわぬよう、 3.の先端が十分に深く切り込んでくれる必要がある。ピッチ4mmとすると、 片手半回転で2mm切り込んでくれないと、せっかく切ったネジ山が潰れて、 いつまでたっても食い込んでくれない、ということになる。 あるいはタップ刃先が摩耗していても、うまくネジが切れない。

この点からも、 1. の刃の角度は、その鋭さと同様に重要であり、回転運動によって 刃先が氷に食いつく角度になっていなければならない。 つまり進行方向と直行する平面と、刃のなす角度は鋭角でなくてはならない。

以上を実現するように刃先を切削加工することができれば、 道具や工法は何でも構わない。わしはホームセンターで売ってる6000円くらいの ハンドツールに、3mm厚の砥石と切断用の薄い砥石をつけて使っている。 薄い砥石で1の刃の奥の方を掘り、 厚い砥石で1の刃をつけ、 刃の背中の斜めの箇所も厚い砥石で削っている。 3の先端を仕上げるのはよく集中して作業する必要がある。 また、4つの刃を順番に少しずつ削ったほうがいい。 まとめてたくさん削ると、 ショボいハンドツールのグラインダといえども、 けっこう熱くなってしまい、ヤキが鈍ってしまうおそれがある。

かなりの量の金属粉と砥粒が飛ぶので、屋外で作業している。 保護メガネと防塵マスクは必須だ。


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