サバイバルナイフ。よく事件に出て来る刃物です。
私の知る限り、その元祖はランドール M-18 http://www.bp-outdoors.com/knife-randall-model-18.html というやつだ。 刃の背がノコギリになっていて、柄が管で、尻金がネジで、 柄の中にいろんなお宝をしまう事ができる、 という様式を確立したのがこれだと思う。
実装が異なるが、コンセプトはスイス アーミーナイフと一緒で、 要するに「あれもこれも無いとイヤ」というものだ。 ところで、M-18はずいぶん昔から存在しているのだが、 ある映画の人気が出るまではずっと、 特殊でマイナーでヘンテコなものというという位置付けだった。 これは、本質的に妥当な評価だったと思う。
この種のナイフを扱った映像表現として、もっとも流布したのは いうまでもなく、 RAMBO シリーズ第一作の first blood である。 この映画で Jimmy Lile の作品が大活躍して、 一躍「サバイバル ナイフ」というものが認知されることになった。 それどころか、ナイフといえばコレ、というくらいの勢いになり、 その意匠を真似たパチもんが大量に産まれたりした。
ばかげた話だが、背中のギザギザは「ヒコーキのアルミを切って 要るものをこしらえる」とかいう説明が当時はまかり通っていた。 ヒコーキのアルミといえばホンモノの鉄ノコでも 切るのに難儀するような代物で、 ナイフの背中の粗雑なギザギザでどうにかなる材料ではないのだが、 サバイバル ナイフというと一事が万事、この調子だった。 背中のギザギザを触って、 「ヒコーキのドテっ腹を切り裂いて鍋をこしらえてやるぜハァハァハァ」 みたいな感じなのかな?よくわからないのだが。
要するにこの種のナイフは決意や生存能力といった、 本来は人間に内在していなければならない、 カネや装備ではどうにもならないものを象徴的に代替する存在なのです。 筋肉もナイフも知恵と勇気の代わりにはならないのだが。 シルベスタ スタローンは(それにサバイバル ナイフという存在も) このあたりの発想がどうも病的で気色悪く、苦手だ。
まぁそれ以前に俺はそもそも、こういう「あれもコレも欲しい」という のび太っぽいコンセプトが大嫌いなのだ。 柄の中にごちゃごちゃといろんなものを仕舞い込んだりして、 了見がセコいんじゃ。
よく積層鍛造された鋼を「ダマスカス鋼」などといいますが、 これは、当時の毛唐が先進文明だったイスラームと十字軍で戦争してみて、 その優れた刀にたまげて、ダマスクの刃は凄いぞ、 という伝説ができたために、その名前だけが確立してしまい、 その一方で本家の中東起源の製鉄技術は何らかの原因で17-8世紀に途絶えてしまい、 オリジナルが無くなってしまったところに ソレっぽい模様が共通した積層鍛造工程で作られる鋼を 混同して「ダマスカス」と呼ぶようになってしまったものです。
本家ダマスカス鋼は、その製法も構造も途絶えた原因すらも 未だによく解っていないようですが、 炭化物が析出している層があるらしく、 それが独特の文様になっているとのこと。 バナジウムとかタングステンが含まれていたのではないか、 そういう元素を含んだ鉱脈が途絶えた事が、衰退の原因ではないか、 などと憶測されているそうで、 今もなお、 「ダマスカス ブレードにカーボンナノチューブが入っておる」 とかいう記事が Nature に載ったりして、 失われた古代の超技術への興味は尽きないようです。
ちなみに切れる刀の伝説というと世界どこでも共通みたいで、 刃の上に上等の絹布をハラリと落すとまっぷたつ、 ついでに岩もまっぷたつ、とかそんな感じです。 判ってても、そういうのは萌えてしまいますね。 わしもナイフを作っていた頃は、 カンヅメを開けたその刃でヒゲを剃って悦にいったものです。 馬鹿ですね。 そもそも最近のカンヅメはカン切り要らなかったりするわけで、 ロマンもクソも無い時代になったもんです。
しかしながら、何らかの事情で体系的な技術が一旦失われてしまうと、 それを復元するのは容易な事ではなく、 今もダマスクの刃とは何だったのか?どうやって作ったのか?という事は謎のまま。 日本でも、鎌倉期の刀はその後の製品と何がどう違うのか?という謎が 江戸時代以降、未解決の問題として今も刀工及び一部の研究者の課題として残っているのです。
テクロノジーは単調増加的振舞をするもの、という前提があるので、 この前提とくいちがう古代の技術には、 いろんな意味で人々を釘付けにする力があるのです。
遂に妻が天然酵母のパンのノウハウを確立した。うめぇ。
もう3ヵ月以上、パンを買ってない。 富士山にも妻が焼いたパンを弁当で持って行きました。 あんまりうまく膨らんでないのですが、 これが欠点とはならないのが山弁当でパンを使う場合の面白いところです。 なぜなら元々膨らんでいないので、ザックに入れても潰れないのだ。 しかも腹もち抜群である。
むしろ普通のパンのつもりで食べると腹がふくれすぎて大変な事になる。
ここ数年、パンク修理には炭酸ガスボンベだった私だが、 ボンベが遂に尽き、最近どの店にもボンベを売ってないので、 またポンプに戻った。
とはいえ、以前使っていたポンプは去年、みやけくんと大台が原に走りに行って パンクしたときにメーターが「ばぼーん」と吹き飛んでぶっこわれてしまって それきりである。
そこで、近所の自転車屋で、こういうかっこいい小型ポンプを見付けたので買ってみた。 銀色で、なかなかかっこいいではないか? しかも非常に小型である。 ボンベは一本360円なので10回くらいパンクしたらモトがとれる計算だ。 あー。早くパンクしねぇかな。
どうも鞘はわりと具合が良い感じなので、 久々に斬鉄君を研いだ。 鞘に入れてるだけで切れなくなるのでは、研ぐ気も失せようというものだ。
一年ぶりくらいか。げっそりするくらい研ぐのが下手になっていた。 まぁそこそこ切れるようにはなったが、正直、イマイチだ。 画像で見れば判るが、カマボコ化がありえないくらい酷いな。 研ぎ面はビシっと平面でないと。 以前だったら、ちょっと使ったカミソリ程度には、 つまりヒゲが普通にサクっと剃れる切れ味なんて普通だったものだが。 鞘に入れて移動するだけで切れなくなるのが ムカつくので、ずっと研いでなかったらヘタクソになったということか。 気合いがはいっとらんな。
ついでに、柄の削りと仕上げが非常にでたらめなのも、少し直した。
柄はインド産のマメ科の木 Pterocarpus santalinus である。
じつはこいつはハイス中型汎用ナイフの2代めだ。 初代は1992年初頭か91年末くらいにこしらえたのだが、 2年ほど使ったところで紛失したのである。 この一本目の製作がこりゃまた物凄く大変だった。 じゃあ、この紛失した初代斬鉄君の話でもしますかね。
まぼろしの一本目は拾ったハイスのバンドソー刃を 焼きナマシて製作開始した。 まずは焼き鈍し。 とりあえず焚火で変態点以上に加熱して、空冷するわけですよ。 裏のESSの舞台セットの廃棄物をごっそり持ってきて、 火柱あげて、できた炭火に突っ込んで。 火から取り出してとりあえずドリルで穴を開けようとすると、 これが一切受け付けない。 実は当り前です。 クロム、モリブデンなどの合金元素が炭素の拡散を邪魔して、 オーステナイト>パーライト変態を阻止するため、 ハイスは空冷程度の冷却速度でマルテンサイト化、 つまり焼きが入ってしまうのである。 500度まで加熱しても焼きが鈍らず、高速度の切削が可能なのはこのためです。
ポンチを打てばポンチが潰れ、 しょうがないので「物理兵器がダメなら化学兵器だ」 とエッチングでドリル位置をマーキングして挑んでも、ダメ。 焼きが入ったハイスだから当り前です。
必要な冷却速度を更に文献調査すると、何時間もかかるらしい事が判った。 むしろ実は自分たちがやってたのは焼き入れだった事を知って 「おそるべし」と認識を改めて、ばかでかい焚火をこしらえてその中に放置。 翌朝見に来ると、さすがにやっと鈍しができていた。 削って磨いて元住吉の「不二越冶金工業」に持って行って、焼いてもらった。
焼き入れが終って加工していたのだが、 どうもおかしい。 やけにヤワい。 なんせヤスリが乗るのである。 それは硬さで言うとHRc60未満という意味である。 指定は63だったと思う。 電話して聞いてみると、56しか出てないという。 なんじゃそりゃ? ハイス使って56って意味無いだろ。 こりゃダメだ! とはいえ、これは何かがおかしい!何を間違えたのか?
鋼種を間違えたのか? メタルバンドソーに使われる鋼種といえば sk か sks か skh のどれかだ。 ハイスを焼き戻す温度で焼き戻したら sk も sks も56の硬さは残らない。 だから、鋼種が間違っているということはありえない。 だったら、何が原因だ?
結論から言うと、これが脱炭現象だった。 鋼の組織中に含まれる炭素が、空気中の酸素と反応して失われてしまったのである。 要するに、何度も空気中で焼きナマシに挑戦しているうちに、 鋼をぶっ壊してしまったのだった。 本をよく読むと、ハイスやマルテンサイト系ステンレスは真空などの 保護雰囲気中で 焼き鈍しを行え、とある。
真空炉もソルトバスも美術部にねぇよ! というかそんなモンあったら自分でヤキ入れてるよ!
つまり焼き入れどころか焼き鈍しも自分じゃできない。それが高速度鋼なのである。 なんという超テクノロジーに俺は挑戦してしまったんだ、 とその時になって初めて後悔したがもう遅い。 真空に引いた石英管に資料を封入して処理する、 という手口もあるにはあるのだが、常識で考えてそんなの無理だろ。 つまりちゃんと焼鈍された商品を買ってきて、 削って焼き入れしてもらう以外に、 俺らがハイスのナイフを作る事は不可能なのである。 結論が出たところで、 また「タウンページ」を繰って、「鉄鋼材料商」のところに掲載されている、 近所の店に片っ端から電話しまくり、 SKHの板材を買ってきて、切って削って磨いて(焼きは外注して)、 柄をつけたのそのナイフだった。 刃も柄も今使っているやつより1cmほど短かった。
本体ができたところで燃え尽きてしまい、鞘を作ったのは翌月だったと思う。
ところで現用の2代め以降、ナイフは一本も作ってないが、 紛失したらそっくり同じものをまた作るつもりだ。 人間の手が今の構造をしている限り、これを超えるナイフは存在しない。 こいつが最強だ。 ところでそんなすげぇナイフを一体何に使っているのかというと
最近はもっぱらこれだ。笑。
まだ卵を抱いてるのかな。あいかわらず巣に出入りしているのだが。