メジロおし (2010/02/11)


まんが

「もやしもん」が貸し出し中なので「シグルイ」借りて来た。

ところで「もやしもん」の主人公は、俺的にはあの大学だと思うんですよ。 昔からある大学には、バブル前まではどこも、ああいう雰囲気があったと思います。 歴史と伝統と混沌みたいな。 それが凄くよく描けているのがとても良い。

たとえば東工大だったら、 いま100年記念館が建っているところには、かつて風洞の遺跡があった。 戦前には東工大にも航空工学があって、 でかい風洞が正門脇にあったわけです。 でかいといってもNASAの風洞には負けますが。

その横には巨大な星型エンジンが転がっていて、 それは戦時中のB-29のエンジンだとかいう噂が、 水泳部の深いプールには戦車を沈めて実験していたとか 本館前の桜並木の下には巨大な防空壕があって、本館の地下から行けるとか、 空襲にあっても本館でマージャンやったらパイが揺れもしないとか、 そんな噂とともに、まことしやかに囁かれていたりするわけです。

そんな雰囲気が、もやしもんの某農大には旺盛に充満していて、 それがとても良い。 ちなみにカオス度でいうと、これは前職で同僚だったふじわらさんも同意見ですが、 あちこちの大学を見たなかで最強は京大でした。 そして京大には今もそんなカオスっぽさが濃厚にたちこめています。

そういうカオスっぽい雰囲気が、バブルの頃を境に 大学からすっかり薄くなりましたね。 バブルの頃、大学がこぞって都心から田舎に引っ越しましたが、 そのせいでしょう。 昔からそこにある、という事自体も価値なのに。

ところでシグルイですが、これまじ最高っすよ。

スキー

平地の移動手段としては自転車がもっとも洗練されていると思うが、 山岳地におけるそれはスキーであろう。

スキーは元もとは狩猟の道具だったのである。 徒歩に比べてもスキーは静かである。

なにしろ雪という音を吸い込む物質の上を滑走してゆく乗物だから、 スキーは非常に静かでかつ速度も速い。 音に敏感な野生動物といえどもかなりの距離まで接近を許してしまう事も 多いのである。 林道をスキーで下っていて角を曲がったところでシカにばったり遭う、 などといった事はけっこう多い。 今でも北欧ではクロカン板をはいてライフルを担いで狩りにでかけるのである。

静かな方が良いとはいえ、 デモンストレーション的に歌いあげる事が望ましい 状況というものも存在するわけで、 そんな時に歌に相応しい音を出す乗物には、 洗練とはまた異なる一定の好ましさがある、とは言えるだろう。 衝撃波の美しいダイヤモンドパターンがアフタバーナの青い炎の中に 輝いて見える SR-71 のエンジン音のように。 だが、私としては、そのような自己主張は乗物ではなく乗っている者が やるべき事だとも思うのである。

静かで速い、というのもスキーの重要な魅力ではあるが、 精妙なサイドカーブや厚みの配分それ自体もまた美しいのである。 使用者の適切な技術の裏付けを前提としての事ではあるが、 このカーブと厚みの配分が、あらゆる雪面における自由自在な コントロールを可能にしているのだ。 実にシンプルで美しい回答ではないだろうか。

メジロとウグイス

日本の伝統的美術あるいは文学におけるウグイスは、 自然学的には若干微妙な存在である。

日本文化においてウグイスとはしばしば、 メジロの事をいうのだ。ただし声は「ほーほけきょ」と鳴くことになっている。 つまり、よく梅の花にやってきて「ぷちー。ちゅるちゅるちゅる!!ちゅるちゅるちゅる!!!!!」 と言ってる緑色の小鳥が「ほーほけきょ」とも鳴いているとされていたのだ。

ウグイスは、地上50cmくらいのところを身を潜めて素早く移動する目立たない小鳥で、 個体によっては「ほーほけきょ」の時期によく目立つところに出て来る者もあるが、 それは比較的例外的であり、 声はすれども姿は見えぬ存在である。 一方、メジロは人をあまり恐れず、梅の花によく集まり、 いつもつがいで行動することで人気の高い鳥である。

そんなわけで、今も日本美術では案外、メジロの姿がウグイスとして 通用しているのである。

左はよく「初音」などの名前で売られている、 生和菓子。 中はメジロ。右がほんもののウグイス。

菓子は あきらかにメジロがモデルですな。

ではメジロは鳴かないのかというと決してそんなことはなく、 春になると樹木のてっぺんなど 目立つ場所に出て来て見事な歌を歌うので、 この混同には若干解せないところが無いとはいえない。

姿と声が一致していない例はこれだけではない。 もっとも端的な例は「ブッポウソウ」である。 夏鳥のフクロウであるコノハズクの「ぶっきょっこー」という声は、 ブッポウソウ目の鮮やかな色彩の夏鳥、 ブッポウソウが出していると思われていた。 じつは、これが判明したのは案外最近のことで、昭和10年である。 ブッポウソウは「ぶっきょっこー」とは言わず、「ゲッゲッ」みたいな 声だそうだ。

日本橋三越のB1Fでみかけた3種のうぐいす型生和菓子はすべて、 メジロをモデルとしていた。

そうそう、ついにけっこう近くでメジロのつがいの相互羽づくろいを 観察したよ。 鳥は、普通はくっついたりせずどんなに寒くても微妙な距離を 保っているものだが、メジロは互いにくっついて枝にとまり(メジロ押し)、 しばしば互いに羽づくろいをする。 冬枯れのなか、その一点だけが暖かい。


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