ハネがあって好きな時に好きなところへ飛んで行ける鳥は、 自由の、また超越的存在の象徴として全世界的に通用しています。
しかし、空は案外呵責に満ちた弱肉強食の身も蓋もないおそるべき世界なのです。
まず、空には隠れるところがない。これ重要。 何キロも、どこまでも見通せる。 つまり空はどこでも条件は同じ。 だから空では、眼が良くて、飛ぶのが速くてうまい奴が生き残る。 遅くてヘタクソな奴はノーチャンス。 つまり空はものすごい単純な生態系。 構造が単純で、居場所はちょっとしかない。 これがたとえば森なら、隠れるのがうまいけど遅いやつ、下手だけど素早いやつ、 鼻が効くやつ、耳のいいやつ、夜も見えるやつ、という具合にいろんな 活躍場所がある。 空は見通しが効いて、均質な空間だから、 たとえばハヤブサみたいな速くてよく見えて飛ぶのがうまい奴に狙われたら、 もうどうしょうもない。
空には空の秩序と縄張があり、妥協の余地無きおそるべき生存競争の掟が支配しているのだ。 地面をはいずりまわるくらいしかできない俺らは、 そのおそるべき掟を知らないので、 勝手な事を言ってるだけなのである。
妻が見付けたメジロの巣。
フォン ノイマンみたいに頭が良かったら、どんなにいいだろう。と 普通な私は時折そう考える。 特に、しょうもない問題を解決するのに何時間も何日もかかっている時に、 強くそう思う。
それは、カネがいっぱいあったらどんなにいいだろう、 というのとある意味同じである。
カネも知能も可能性で、何か具体的な事に使って始めて意味がある。 それ自体は可能性でしかないので、幾らあったら十分という話にはならない。 何か具体的な目標があってはじめて足りないとか十分とかいう話ができる。
ついでにいえば、 幾ら頭が良くても挫折はあるものらしい。 ノイマンはヒルベルトの弟子として、ヒルベルトが提唱した 無矛盾性に関する問題を解決したいと願っていた。 そして、それに極めて近いところに居た。 おそらく世界でもっとも解決に近いところに居たと思われる。 ただし、クルト ゲーデルを除いては。 なお、完備内積空間にヒルベルトの名をつけたのは、 ノイマンなのであり、案外このひとは師匠思いの良い奴なのである。 さぞ無念だったことだろう。
どうも、知能は挫折を避けるためには大して役に立たない、という事であろうか。 だって、ノイマンでダメならもうダメでしょう。
ノイマンをぶちのめしたゲーデルはゲーデルで、いろいろ悩みがあって、 アメリカに移住した後、心を病んで食事もできなくなり、衰弱して死んだ。
だからどれくらい頭がよければいいか、なんて話はその頭を何に 使うのか?という事が明らかにならない限りは、できないわけです。 カネも知能もCPUもメモリもディスクも冷蔵庫も、あればあっただけ 全部使うからです。
あーそれでいうと、とりあえず今解いてる問題には、 頭が足りないみたいですわ。ガクシ
丸の内の丸善の隣でやってた、 探査機「はやぶさ」のカプセル展示をみてきた。
一般公開としては、先月末の相模原に続いて2度めだが、 先月のものが屋外で何時間も待たねばならないのに対して、 こちらは屋内だからずいぶんマシだろう、と思って子供を背負って行ってきた。
これが7年の間、真空 高温 低温 放射線に晒され、 最後に秒速12km で大気圏に再突入して 10000度と 50G に耐えて無事戻ってきたのか、 と思うと非常に感慨深い。
前面ヒートシールドは、中央部と周辺部で作りが違うようで、 それが耐熱材が蒸発した跡でなんとなく見えた。 放射状にわずかな亀裂が見られた。 ヒートシールドは、それ自体も先端は3000度以上になり、 一方内部はせいぜい数十度だからわずか数十ミリで3000度の温度勾配。 ものすごい熱勾配による変形があるはずで、 それに耐えるための構造がおそらくは設計上のひとつの鍵。 材料は炭素繊維強化樹脂だというが、 つまり、その樹脂と炭素繊維の方向ならびに量が、 熱勾配と加速度による変形や破損を避けるためのノウハウなのである。
しかし50Gってすごい加速ですな。 秒速12kmを数分で減速するわけだから、 均等に割っても大変な加速(というか減速)が必要というのはすぐ判りますが。 空気って押せば避けるし弾力性もあるような気がしているけれど、 それは我々の日常的な速度域でのはなし、という事ですね。 まるで橋の上から川にとびこむみたいに 大気の層につっこむときに衝撃を受ける、というわけです。 その衝撃が大気を圧縮し、熱となり、プラズマが光跡として残るわけです。
そういえば、本体が飛散する過程でイオンエンジンの推進剤である キセノンガスも放出されるわけですが、そのプラズマは大気とはまた別の色を出すわけで、 そのガスの色が見えるよ、とイオンエンジンの専門家の方が 記事を書いておられました。 再突入時に残っていたキセノンガスは 20kg だそうです。
よく無人島に一つだけ持って行けるとしたらどの本(あるいは 言語処理系)を選ぶ?みたいな話があってね。
自分の選択としてこれは合ってたなぁというのが一つあって、 それはアリストテレスの「形而上学」をヨーロッパに山登りに行った時 持って行ったんだ。
「形而上学」はとにかくギッチリと詰めて書いてあるので読むのが大変だ。 ただし、アリストテレスは頭が良いといっても、 ただ事実を最小限の記述で正確に記す事にのみ気を使うのではなく、 「どういう風に、どんな順番で話をすれば他の人が解ってくれるか」 という事にも頭がまわるタイプの人なのです。 だから根性を決めてじっくり読めば理解可能である。 わしがアリストテレスのファンなのはそのあたりで、 つまり、ものごとの本質をズバっと鋭く突くだけでなく、 その自然な表記はどうあるべきか、というところまで知恵がまわってる人って、 なかなか珍しいですよね。
彼は、いわゆる今日いうところの「哲学者」ではない。 今日いうところの哲学者は彼の属していた知的営為の系譜に属していない。 もし彼が現代に生きていたら、というのは夢のある話だが、 彼の興味の範囲と推論の射程はわしのそれを(あたりまえだが)遥かに超えているので、 どんな分野を選んでどういう仕事をしたか、というのはほとんど見当がつかない。 アリストテレスの業績の一部は、現代においては情報処理技術の基礎理論などに 生き続けているが、 彼が今居たら情報処理に携わるとも思えない。 案外宇宙開発とか、やってるかもしれん。
ところで無人島に持って行くのは scheme だろ。噛めば噛むほど味が出る。